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第92回日本社会学会大会テーマセッションの詳細

【1】ヒトと動物の「社会的共生」を構想する
①コーディネーター:徳田剛(大谷大学社会学部)
②趣旨:
現代社会において,動物やペットをめぐる様々な話題が取りざたされている.一方では,ペットとの暮らしが飼い主のQOLを高めたり,ペットセラピーや動物介在療法のように心身の健康回復の手助けになったりするなどの,ヒトと動物の“良好な”関係への関心が高まっている.他方で,ペット飼育時のマナー違反やトラブル,ペットの遺棄や虐待,地域での野良猫問題,災害時の同行避難,希少な野生動物の保護,農漁業への鳥獣被害,飼い主のない動物の殺処分や実験動物の処遇などのように“社会問題”化している課題も少なくない.
ペットや動物に関する話題は,社会学という学問にとって取り扱いづらい問題領域ではある.しかし,それらの諸事象の背後に存在する「ヒトとヒトの関係」やペット・動物に関する多様な立場や考え方を持つ人々の「共生」などに照準することで,重要な社会学的な問いとして主題化できる.動物やペットをめぐっては,往々にして極端なまでに肯定的/否定的な立場や無関心な態度を惹起しがちである.それゆえに社会的な「場」や「コミュニティ」においては実に折り合いが付けにくい問題として立ち現われ,コミュニティガバナンス,社会福祉,住宅・居住,グラスルーツな運動などの問題領域へと結びつく.
本セッションでは,「ヒトと動物の関係」のあり方や今後の方向性について,社会学的な視点や方法から検討する.動物は人とのかかわり方の違いによって「愛玩動物」「野生動物」「動物園動物」「実験動物」「畜産動物」に分類することができる(打越綾子『日本の動物政策』より).本セッションでは,これらの各種動物に関する具体的なトピックを検討しながら,多様な立場や価値観を有する人たちの「共生」や「コミュニティ形成」の可能性について議論を深めたい.
③キーワード:ヒトと動物,ペット,共生,コミュニティ,社会問題
④使用言語:日本語

【2】Webで切り拓く社会調査の新しい世界
①コーディネーター:木村邦博(東北大学)
②趣旨:
Web調査の普及が社会調査法に革新をもたらし,社会学的知見を拡大するという期待が高まっている.本テーマセッションでは,このような革新・発展につながる研究成果を共有するとともに,課題解決のためのアイディアを醸成する場を提供することを目指す.Web調査に関する方法論的研究を行っている方やWeb調査を通して社会学的問題に関するデータを収集し分析している方はもちろん,Web調査に批判的・懐疑的な見解を抱いている方の報告や討論参加も歓迎したい.
Web調査の可能性と課題として特に取り上げたいのはたとえば以下のようなことである.(1)Web調査では自発的参加による登録モニターが回答者になることが多いけれども,このような場合の統計的推測や母集団への一般化はどのように行えばよいか.またそのような推測や一般化から何がわかるか.(2)母集団の中での比率がきわめて小さいなどの理由で,無作為抽出など従来の標本抽出方法ではアプローチが難しかった社会集団の研究を,Web調査で開拓できないか.(3)調査票の構成やワーディングによる測定誤差を実験的Web調査で検討することができるので,これを大規模な訪問調査や郵送調査のプリテストとして活用できないか.(4)回答時間などのパラデータを回答者の邪魔にならない形で収集し分析することで,質問への回答の過程に関する知見を蓄積することができないか.(5)Web環境に合わせてレイアウトをくふうしたり画像や動画を用いたりすることで,質問に答えてもらいやすくなり,豊かな情報を引き出せるようにならないか.(6)Web調査の特性を活かせば,逸脱行動などのセンシティヴなトピックに関する質問であっても回答拒否や虚偽回答を減らし,社会に関する正確な情報の把握につなげることができないか.
もちろん,革新・発展の可能性はこれだけに限らないだろう.上記以外の話題に関する報告も期待している.
③キーワード:Web調査,標本設計,調査票設計,プリテスト,センシティヴなトピック
④使用言語:日本語,英語

【3】ステレオタイプにおける社会学とマンガ研究――認知過程の社会学,認知結果のマンガ研究を手掛かりに
①コーディネーター:小野塚佳代(京都造形芸術大学)
②趣旨:
人間の外界の情報を整理し,適応していくための効率的な心の動きとしてステレオタイプがある.この認知上の仕組みから生まれた表現と内容は,偏見や差別を生みだす恐れがある.反面,社会に共有され,人々をつなぐものとなりうる.本テーマセッションでは,社会学とマンガ研究の双方からステレオタイプ認知と表現がもつ社会の認識共有という側面を再認識検討する.
マンガ研究では,キャラクターやストーリー理解にこの心の動きを利用してきた.それらだけでなくマンガ表現そのものについて差別や偏見の問題を俎上に挙げてきた.社会学では,特にメディア研究がステレオタイプの生み出す差別や偏見,浅薄な認識(「負の側面」)が強調されてきた.前世紀後半の認知科学の進展に伴い,外界との情報接触という側面から,ステレオタイプをと捉えようとしている.
しかし,現代では,この「負の側面」が増幅しているようにみえる.たとえば,フェイクニュースの生産・流通・消費に見られるように,理解できるものしか理解(共有)しないとする一種の過度な選択的接触・認知・態度といった傾向がみられる.それが異なる個人・集団・社会に対する差別や偏見という浅薄な理解を促し,その結果,異なる他者等とをつなぐことを妨げている.
このような共有の崩壊に,マンガ研究と社会学はどのようにして認知内容を他者に共有できるだろうか.前述した,マンガや社会学による差別・偏見の構造を事例や調査・実験から実証的に明らかにする試みだけにとどまらない.たとえば,歴史や地域といった比較の視座を導入すること,ネットメディアにおける事象の扱われ方から認知構造を探ること,組織や集団・社会が自他のそれぞれの外界認知からどのように構成されているのかを問うて,多様な認識を持つ個々人が少数の態度の収斂していく過程について従来の視点を再検討することなど,浅薄な意味領域を超えた「共有」の仕方を探る様々な接近方法が考えられよう.
③キーワード:ステレオタイプ,認知,社会学,マンガ,メディア
④使用言語:日本語

【4】アートベース・リサーチによる社会学とアートの新結合~『四つの四重奏』――弦楽四重奏団を招聘した実演を交えた超域的セッション~
①コーディネーター:森泰規(株式会社 博報堂)
②趣旨:
筆者は広告会社でブランドマネジメントを通じて顧客の事業活性化に資することを本業としており,昨今,顧客にとって普段の事業活動では出会うことのないような「縁遠い」存在と出会い,相手からの刺激を得ることによって,自分自身の存在意義に気づくという体験こそが新たな革新をもたらすヒントになることを痛感している.まさしく「イノベーションとは新結合だ」ということである.
たとえば,取締役会でリーダーシップについて考えてもらう際,複雑な理論体系を振りかざすより,目の前にいる四名の弦楽器奏者が「弦楽四重奏」というチームで機能するために,それぞれが果たす役割を実演するほうが,はるかに効果が高かった.そしてこうした活動においては,筆者が本業の傍ら演奏芸術に親しみ,実際に弦楽器奏者と共に演奏を通じて実演できるということの意味も大きかった.
さて社会学とアートのかかわりは,いまだ社会学という学術的な枠組みが「対象とする」という方向で,「芸術を解析する」という方向で実現している傾向があるように考えられるところ,2016年,2017年の2回に分けて実施された,アートベース・リサーチ(ABR)と称されるセッションでは,さまざまな分野の横断的な報告が綴りあわされ,独自の成果を打ち立てていた(応募者自身も参加).ただ2018年には類似のセッションが開催されていない.
そこで今回筆者はこの流れを再び生かすべく,ABRを主軸としたセッションを,実務家としての視点(広告会社のディレクター・演奏家という二つの意味)で開催する.独自性を打ち出すため会場内に弦楽四重奏団を招聘し,その四名が最小単位の「社会」を創造するという比喩(そこでは「階層性」,「共同性」,「システム性」,あるいは「身体性」という四つの概念もカギとなるだろう)を用いてセッションを構成する.いずれにせよこのセッションでは「アートベース社会学」への道筋として,写真や動画を用いた作品群や,ダンス・演劇などの舞台芸術,あるいはそうした広義「アート」の創造過程を通じた研究を歓迎する.最終成果物でなく,創作や研究・教育の過程自体も貴重な報告となるだろう.T.S.エリオットの名著『四つの四重奏 Four Quartet』にちなみ,科学的言語によって記述される学術体系としての社会学において,長らく「荒地 Burnt Norton」であったこの分野を新たな言語で記述し,再構築するものとして構想したい.
2017年の開催と同様,リレーショナル・アートやソーシャリー・エンゲイジド・アートといったアート側からの社会学的なテーマや実践への接近に関する研究,実験的な研究実践,実践の実演(上映),実践についての報告,広義のABR に関する理論的な研究,など幅広く歓迎する.
③キーワード:アートベース・リサーチ,演奏芸術,舞台芸術,弦楽四重奏,質的研究,パフォーマンス・エスノグラフィ,「階層性」,「共同性」,「システム性」,「身体性」
④使用言語:日本語,英語

【5】東アジアの軍事化と地域社会
①コーディネーター:松田ヒロ子(神戸学院大学)
②趣旨:
日本において軍事や軍事産業,軍事基地をめぐる諸問題については,主に政治学者と国際政治学者によって研究の蓄積がなされてきた.だが現実には,軍事化をめぐる諸活動はまさに人びとの生きる社会のただ中で営まれ,軍事あるいは軍事産業と共存している地域社会は,日本をふくめ東アジア各地に点在している.近年は,政治学だけでなく,文化人類学や地理学などの理論と方法を用いて軍事や軍事産業を再検討する試みが日本でも少しずつ盛んになっている.このテーマセッションの目的は,そのような動向をふまえて,東アジアの軍事化を「地域社会」というレンズを通して再検討することである.
これまで,主に日本史研究者の手によって,旧軍(日本帝国軍)と地域社会との相互依存関係が様々な角度から解明されてきている.本企画では,とりわけ第二次世界大戦後,すなわち冷戦期とポスト冷戦期の軍事と地域社会との関係について検討する.政治学においては,国民国家を主要な枠組みとし,政府を主体として考察した研究が主流である.本企画は,とりわけ地方公共団体や地域社会,企業や市民団体,組織化されていない個人や社会集団など,中央政府以外の諸アクターを主体とした研究を募る.政治学とは異なる視点から東アジアの軍事化について議論するとともに,地域社会の変容を「軍事化」という視点から捉え直したい.
また地域社会を中心に据えることによって国家を相対化し,「東アジア」という広域を視野に入れた議論を展開したい.地域社会と軍事基地の関係については,沖縄に焦点を当てた研究が多いが,米軍施設と自衛隊基地・駐屯地・軍事演習場は,沖縄県だけでなく日本各地に点在していることを強調しておく.日本だけでなく,朝鮮半島,中国,台湾,香港,モンゴルをフィールドに調査研究を行なっている研究者からの応募も期待している.
*You are welcome to give a presentation in English. The coordinator will assist you during the discussion time in Japanese if you feel more comfortable speaking in English.
③キーワード:東アジア,地域社会,軍隊,自衛隊,軍事基地
④使用言語:日本語,英語

【6】「時間の社会学」の現代的展開
①コーディネーター:高橋顕也(立命館大学)
②趣旨:
時間は社会学において理論的にも経験的にも最重要の概念ないし変数の1つである.
社会的時間を理論的に扱った社会学的研究としては, P. A. Sorokin & R. K. Merton(1937)“Social Time”といった古典に始まり,工業化社会の時間に焦点を当てたW. E. Moore(1963)Man, Time, and Society や非近代の時代・地域との比較を行った真木悠介(1981)『時間の比較社会学』などの名著がある.しかしその後,個別の理論研究が提示されていったにもかかわらず,B. Adam(1990)Time and Social Theory が述べているように,それらを総合する試みが欠けており,現代の「時間の社会学」の理論と呼べるものが生み出されてこなかった.そうした状況に対し,近年では総合を図る意欲的な理論・学説研究が国内外で提起されている(A. Nassehi(1993)Die Zeit der Gesellschaft,A. Abbott(2001)Time Matters,多田光宏(2013)『社会的世界の時間構成』,T. Hirsch(2016)Le temps des sociétés,Time & Society 誌[1992~]).
他方で,生活時間研究(time-budget studies)や余暇の研究を始めとする経験的な時間研究も蓄積され,また近年,社会的記憶や,戦争や災害などの危機的出来事の時間的体験(関礼子(2018)「災害をめぐる『時間』」,寺田匡宏(2018)『カタストロフと時間』),さらに時代診断や社会構想に含まれる時間的契機に注目が集まっている(H. Rosa(2005)Beschleunigung,若林幹夫(2014)『未来の社会学』,O. Dimbath(2016)Soziologische Zeitdiagnostik).
以上から,「時間の社会学」には,社会的時間に関するこれまでのさまざまな理論研究と経験的研究を架橋し,経験的研究のインプリケーションを相互に参照させるような研究が改めて求められていると言えよう.そこで本テーマセッションでは,社会(学)的時間をめぐる理論的,学説史的,経験的な研究を共有することで,「時間の社会学」の現時点での到達点を確認するとともに,それらをどう総合し展開していくかを論じ合いたい.
③キーワード:時間の社会学,社会的時間,出来事,社会的記憶,未来構想
④使用言語:日本語

【7】ポスト・ブルデューの文化社会学――趣味などの経験的研究を中心に
①コーディネーター:川崎賢一(駒澤大学)
②趣旨:
ピエール・ブルデューの『ディスタンクシオン』が1990年に日本に紹介されてから,30年近い時間がたち,文化や趣味の社会学の経験的研究も蓄積されてきた.彼が1960年代のフランスを対象として見出した文化理論や文化と社会階層・階級研究は,社会学のみならず多方面に大きな影響を与えてきた.その後社会は大きく変容し,グローバル化やICT化,さらには社会構造の2極化も進行している.その変化にともない,文化と社会の関係,とくに文化消費や文化生産,ライフスタイルや趣味の様態にも大きな変化が生じているという問題意識にたち,本テーマセッションでは,ブルデュー理論をベースとしつつも,ブルデユー以後の研究の展開を検討することを目指している.特に現代日本における文化と社会の関係に関する新しい視点にたつ経験的研究を,ポスト・ブルデューの研究視点も踏まえて検討する.
ブルデューが明らかにしたようなライフスタイル空間と社会的位置空間の対応関係だけでなく,ベネットらが行った異なる文化的「界」=領域における文化参加のパターンやテイストの問題を扱った経験的研究がある.新しい文化資本とは何であるのか,また文化と社会階層の関連性だけでなく,ジェンダーや世代による分割原理の重要性についての検討も改めて必要である.そしてグローバル化による文化変容が,どのような結果をもたらしてきたかを検討する時期にきている.理論面ではライールによる多元的ハビトゥス概念の提案やブルデュー理論への批判的研究も増えている.ブルデューの理論を用いた日本の研究を再考するためにも,新しい動向であるポスト・ブルデュー理論にたつ研究に注目する必要がある.文化テイストやハビトゥス,文化消費,異なる界における実践の研究を対象として,ブルデュー理論をベースにしながらも,趣味などを扱った新しい経験的研究の成果と展開について議論することにしたい.
③キーワード:文化資本,文化消費,社会階層(階級),ハビトゥス,ピエール・ブルデユー
④使用言語:日本語

【8】デジタル時代の社会調査を考える
①コーディネーター:常松淳(日本大学)
②趣旨:
ソーシャルメディアや納税記録などのビッグデータ,集合知を使った新しいサーベイ法,デジタル社会実験などの最先端の手法が,いま社会科学の世界を変えつつある.2017年,計算社会科学と呼ばれるこの分野の主導的研究者のひとりである Matthew Salganik が,デジタル時代の社会調査法について世界初の網羅的なテキストを出版した(Salganik, Matthew, 2017, Bit By Bit: Social Research in the Digital Age, Princeton University Press.[邦訳『ビット・バイ・ビット──デジタル時代の社会調査入門』有斐閣,2019 年 4 月刊行予定]).同書は,デジタル時代の新たな社会調査(計算社会科学)で何が可能となったのかを,豊富な研究事例の紹介とともに解説したものである.
このセッションでは,同書で展開されている議論を軸として,社会についてのデータをどのように収集するかという広い意味での社会調査法について再考したい.携帯電話による行動観察やオンライン実験などを含むデジタル時代の新たな社会調査法によって,既に膨大な量のデータと経験研究が積み重ねられてきている.経験的データを基礎とする社会学にとって,近年発展しつつある新たな社会調査法はどのような意義を持っているのか,そこに限界はないのか.データを質量ともに拡大してくれる新たな社会調査は社会理論にどのようなインパクトを与えうるのか.あるいはまた,社会調査法の拡充にともなって生じる研究倫理上の問題にどのように対処すべきかなど,考えるべき問題は少なくない.本セッションでは,新たな手法の適用について楽観的な同書のスタンスに懐疑的な立場の研究者も含め,社会学が答えるべき課題という観点から,新たな社会調査法について広く論じてくれる報告者を募りたい.
③キーワード:社会調査,計算社会科学,ビッグデータ,機械学習,社会科学実験
④使用言語:日本語

【9】文化産業としてのアニメーション
①コーディネーター:松永伸太朗(長野大学)
②趣旨:
マンガ・アニメ・ゲームをはじめとして,社会学では様々なコンテンツに関する対象がこれまでしばしば検討されてきた.これらは消費文化という点でその連続性が認識されてきた.だが,斧のを産業の水準で見たときには全く異なる固有の秩序が見られる.特にアニメはマンガ等と比べて,一つのコンテンツとして成立させるために必要な人数の規模が非常に大きい.
こうした産業のあり方に関する古典的な議論として,アドルノをはじめとした文化産業論がある.文化産業とは「文化」が「産業」になるということの緊張関係を表すものである.アドルノの文化産業論は批判的な検討に付されることが多いが,「娯楽」が集団的になされることになったこと,「産業」化したこと,それに「技術」がかかわることなどが議論されている.本企画では,特にアニメというジャンルを社会学的に捉えるために文化産業としてのアニメーションという視点をとる.
こうした論点は多様なアニメ研究を切り開くものである.「娯楽」としてのアニメの多様性を捉えるには,その楽しさを追求するアニメという産業に関するファンなど,消費者の文化に着目する必要がある.さらに文化が「産業」になるという論点を捉えるには,その担い手となるアニメーション制作者に焦点を当て,その活動がいかなる外的要因(市場変動・文化政策・技術革新など)と結び付き枠づけられてきたのかを議論することが有効である.こうした多様な「娯楽」や「産業」としての文化という状況は,「技術」によって可能になっている.この「技術」とは,アニメというジャンルを可能にする想像力や,文化政策,メディアミックスなどの環境変容などである.
本テーマセッションでは,こうした多様なありかたに関連する様々な議論を検討し,アニメというジャンルに対しての社会学的な研究蓄積を目指すこととしたい.
③キーワード:文化産業・アニメ・ファン・技術・想像力
④使用言語:日本語

【10】現代社会における食と農
①コーディネーター:立川雅司(名古屋大学)
②趣旨:
現代における食と農は様々な課題を抱えており,社会学から接近するにふさわしい問題構成を持ちつつある.グローバル化,格差社会,リスク社会,社会運動,ジェンダー,アイデンティティ,観光など,社会学が培ってきた問題意識やアプローチを食や農と結びつけることで,現代社会の抱える課題を具体的に明らかにすることができる.食と農が現代社会の特質とその変化を明らかにするうえで格好の材料であるとするならば,「対象としての食と農」に関する研究(食と農の意味や変化そのものを研究するアプローチ)と共に,「方法としての食と農」に関する研究(食と農を通じて社会を読み解くアプローチ)も存在しうると考えることができる.いずれも,社会学において「食と農」を研究する重要な視点と位置付けることができよう.
今回は,いずれのアプローチからでも,現代における食と農を再検討する報告を期待する.たとえば,ミシュランの星付きレストランやメディアでの有名店に行くことが日常的な行為であるとともに,生産者の元にも足を運び,農産物を通じて農業を支える人々がいる一方で,栄養や品質よりも価格のみで商品選択を迫られる人々がいることで浮かび上がる二極化社会.子ども食堂が照らす貧困問題や地域コミュニティの包摂/排除の問題.食の安全・安心言説をめぐる科学化とその不定性の問題.これら以外にも様々な課題を食と農の分析を通じて焦点化することができよう.
本セッションでは,食と農がもつ課題とその含意を通じて現代社会の特質を明らかにするような様々な問題提起を通じて,食と農の社会学および関連研究の深化を試みる.具体的な事例分析からの新たな視角や理論的分析からの問題提起など,多角的な視点から食と農の問い直しの試みを期待したい.
③キーワード:食と農の社会学,方法としての食と農,対象としての食と農,現代社会論
④使用言語:日本語

【11】社会的包摂・社会的排除を考える社会学
①コーディネーター:佐藤典子(千葉経済大学)
②趣旨:
このテーマセッションでは,人生100年と言われる一方,人口減少が進む中,これまでにない速度で少子高齢化する日本で,どのようなことが起きているのか,社会的包摂,社会的排除をキーワードに考えてみたい.
2018年に発表された統計で日本は,世界最高の高齢化率,28.1%となり,団塊世代が後期高齢者となる「2025年問題」によるケアの担い手減少は,より深刻なものとなった.バブル崩壊後の日本は,景気後退と雇用の質の低下によって,就職氷河期が訪れ,売り手市場と言われる現在も,人手不足やブラック労働が,若年世代の生活を不安定にしている.現在,30代後半から40代前半の世代は,今もって解けない氷河世代と言われ,総務省の発表では,2016年時点で,親と同居するいわゆる壮年未婚者は288万人で,生活を依存する者は50万人を超えるという.同時に,2016年には,出生児数は100万人を割った.国立社会保障・人口問題研究所の報告では,今後,日本では,80年間で7000万人近く減少し,21世紀末の総人口は,6000万人と推計されている.これは,現在行われている少子化対策や婚活,妊活レベルで対応できる問題ではなく,市場,教育の分野なども含め,様々な場面で,人口減少による縮減を考えていかなくてはならなくなると思われる.
2010年,日本社会学会若手フォーラムでは,社会学の内と外を考える企画として,NHKスペシャルで特集された「無縁社会」をクローズアップし,一人ひとりが社会から切り離され,だれもが孤独死する可能性がある社会の到来について考察を行った.ところが,翌年の2011年の東日本大震災後は,絆という語で日本中が埋め尽くされ,地域・世代を超えた連帯について語られた.平成という時代も終わり,新しい時代を迎える2019年,日本は,そして世界は,無縁なのか,絆なのか,それとも,こういった枠組みには当てはまらない異なった時代となっていくのか.このような社会の実相について,社会的包摂をキーワードに,さまざまな分野の研究者が集まって何を考えることができるのか,模索したい.
このセッションでは,例えば,以下のようなテーマを考えている.
・高齢者やケアの問題
・少子化,不妊治療,出生前診断などの問題
・セルフネグレクト,若者の引きこもりとそれに付随する問題
・地域の問題
さまざまな分野の社会学者の参加をお待ちしています.
③キーワード:社会的包摂・社会的排除,人口減少社会,少子高齢化,医療・福祉,ケア
④使用言語:日本語

【12】Facing the Twilight Years: Aging Migrants and Perceptions on Well-Being in the Asia-Pacific Region
①コーディネーター:ジョハンナ・ズルエタ(Johanna ZULUETA)(創価大学)
②趣旨:
Aging is a current reality faced by several countries in the Asia-Pacific region, particularly in East Asia and Oceania. The percentage of people aged 65 and above in Japan, for instance, is 27.7% of the total population and is projected to increase to 38% by 2060 (Statistics Handbook of Japan, 2018). In Australia, meanwhile, 15% percent of its population is aged 65 and over and is projected to grow in the coming years (Australian Institute of Health and Welfare, 2018). While statistics mainly show numbers of its aging citizens, it cannot be denied that the elderly population in several countries in the region, such as Japan and Australia, has a significant percentage of people who are aged 60 and above, and are overseas-born.
This proposed panel session aims to examine perceptions on aging and well-being among older or “aging” migrants in the Asia-Pacific region. How do these aging migrants perceive the aging process outside their countries of birth and how does this relate to their perceptions on well-being? Aging here not only refers to the biological and chronological aspects of a person’s life, but is to be considered as a socio-cultural process that is not only based on personal experience, but is also influenced by gender, social class, and race/ethnicity. This session also hopes to problematize the issue of aging among migrants, which is not often looked into in the migration literature.
This session welcomes papers that examine aging and well-being from the perspectives of the migrants themselves and analyse these issues from both structural and individual factors that relate to gender, culture, race/ethnicity, and social class. This session also encourages presentations that provide a (re)thinking of migration processes and experiences from the perspective of aging. Empirical and theoretically-rigorous papers are very much welcome.
③キーワード:Migrants/migration, aging, well-being, Asia-Pacific
④使用言語:日本語,英語

【13】再帰的近代における宗教と社会・個人
①コーディネーター:安達智史(近畿大学)
②趣旨:
本セッションは,再帰的近代における社会や個人に対する宗教の機能および役割について検討することを目的としている.
「再帰性」という概念は,社会学においてイギリスの社会学者アンソニー・ギデンズによって導入されたことで知られている.ギデンズは,グローバル化が日常的現実となった現代社会のあり方を解明するために,再帰的近代化という理論枠組みを提示した.再帰的近代化とは,モノ,カネ,ヒト,資本,文化のグローバルな移動にともない,これまで人々を区分けていた空間的・意味的境界が崩れ,そのなかで「より開かれ,より問題を抱えた未来」と向かい合いながら生きることが余儀なくされる時代を指している.
宗教と社会の関係もまた,再帰的近代化のなかで,宗教の私化を前提とした「世俗化」言説を超えてより複雑な様相を帯びつつある.情報通信技術の発展,福祉国家の後退,国境を超えた(強制的・自発的)移動の増大,個人化の進展,大災害といった未曾有の社会変動を迎えるなかで,宗教が果たす社会的機能に改めて注目が集まっている.そうしたなか,個人の宗教とのかかわり方にも変化が生じている.宗教と個人の関係は,グローバルなフローの高まりを通じて,地域に根ざしたものからより個人的なものへと変化している.別の視点から述べるならば,宗教的コミュニティは,個人の再帰的・選択的な関与を通じて,よりグローバルなものへと拡張しているといえる.
本セッションは,こうした再帰的近代という時代を念頭に置きつつ,宗教の新たな/隠された機能や個人との新たな関係,その原因などをテーマとした,経験的・理論的報告を広く募集する.具体的な例として,以下のようなテーマがあげられる.「オンラインを通じた宗教コミュニティ」,「災害時における宗教ネットワークの機能」,「信仰と社会的態度」,「改宗経験の類型化」,「女性の信仰と自律性」,「宗教とシティズンシップ」,「アジアにおける近代化と宗教化」など.
③キーワード:
④使用言語:日本語,英語

【14】技術革新再考――社会学の理論的冒険
①コーディネーター:飯島祐介(東海大学)
②趣旨:
近代世界に住まう私たちにとって,技術は社会生活の条件をなしている.とりわけ近年,情報通信技術(ICT),人工知能(AI),拡張現実(AR),生殖医療技術など,さまざまな新しい技術が登場している.こうした新しい技術は,私たちの行為の可能性や行為期待を変化させ,ひいては人間観さえも大きく変えうるものである.
ここで社会学的な問題として浮上するのが,社会学理論の再編成である.従来の社会学理論は,ミクロレベルでは対面相互行為を軸に展開され,マクロレベルでは「個人と社会」という問題の下で考えられてきた.だが,もはや相互行為は対面的状況には限られないし,技術を媒介しない個人と社会の関係ということも考えられない.ミクロ・マクロいずれのレベルでも,技術の浸透とともに社会学の諸概念や諸命題がどのように再編成されるかを考える必要がある.
もっとも,新しい技術や社会生活がどこまで「新しい」ものであるかは,十分に考察されなければならない.また,新しさに焦点を合わせることで不可視化される側面にも注意が払われなければならない.「新しい」技術を問題化しようとする,社会学をはじめとする言説それ自体を,その新しさや古さに留意しつつ,反省的に捉え直す視点も必要であろう.
本テーマセッションでは,こうした観点から,「新しい技術と社会学理論」に関する報告を募集する.マクロレベルでは,例えば,新しい技術が近代社会の秩序原理を掘り崩す可能性を踏まえて批判理論の再構築を目指すことが可能であろう.ミクロレベルでは,例えば,現象学的社会学に基づく対面的ないし非対面的な他者経験の理論などが考えられる.むろん,報告内容はこれらの学派に限られない.さらに,「新しい」技術を問題化しようとする言説それ自体を反省的・批判的に捉え直す議論も可能であろう.「技術革新再考:社会学の理論的冒険」というテーマに意欲的に取り組む報告を期待する.
③キーワード:新しい技術の浸透,他者論,行為論,社会学理論,新しさへの反省
④使用言語:日本語

【15】創造性・芸術性と労働をめぐる社会学
①コーディネーター:中根多惠(愛知県立芸術大学)
②趣旨:
クリエイティブ産業における,創造性をもった労働と労働者をめぐる議論が国内外で展開され始めている.本セッションのねらいは,「労働」と「創造性・芸術性」との関わりを明らかにし,労働と芸術創造をめぐる問題構造の解明にむけて体系的にアプローチするための議論を展開することである.ここでは,「労働」とクリエイティビティを結びつけるような研究報告を,下記の3つのフェーズで広く募集し,創造性・芸術性と「労働」概念をむすびつけるための多角的な議論を展開したい.
第一の論点は,創造性を帯びた労働において「労働」および「労働者」概念はいかに変容するのかをめぐるものである.本セッションでは,とくに「労働者性」の概念をめぐる議論を期待したい.労働社会学では,現代的な働きかたにおける労働者性の揺らぎが労働者に与える影響について,研究が蓄積されつつあるが,本セッションが取り上げるクリエイティブ・レイバー領域は,つねにこの問題の中心に位置している.
第二に,第一の視点とも連続する論点であるが,芸術労働をはじめとする,創造性を帯びた労働をとりまく問題構造をめぐる議論である.アーティストなど芸術家にとどまらず,メディアやさまざまなクリエイティブ産業に従事する労働者は,労働領域のあいまいさ,不安定な雇用形態,長時間労働などさまざまな労働問題を抱えている.こうした問題にアプローチすることで,芸術創造を「労働」としてとらえるための論点を導出したい.
第三に,第一および第二のフェーズから明らかになる創造性・芸術性と労働をめぐる問題構造に,当事者あるいは社会がどのようにアプローチしうるのか,といった視点である.具体的には,芸術労働をめぐる集合行為―アクティヴィズム,文化運動や芸術運動なども含む―の動態を描き出すための議論である.
上記の3つをセッションの軸としながらも,本セッションでは,さまざまな切り口からの実証および理論研究報告を歓迎し,また事例についても国内・海外問わず募集する.
③キーワード:芸術,労働,創造産業,文化産業,消費文化
④使用言語:日本語

【16】<関係>と<プロセス>の社会学の可能性
①コーディネーター:川野英二(大阪市立大学)
②趣旨:
近年の新しい理論的潮流のなかで国際的に急速に普及しているもののひとつは,「関係社会学 relational sociology」と呼ばれるムーブメントであろう.1997年にムスタファ・エミールバイアーの「関係社会学のマニフェスト」がAJS誌で発表されて以来,主にハリソン・ホワイトを代表とする「ニューヨーク学派」や歴史社会学者のチャールズ・ティリーなどが関係社会学の代表とされてきた.もっとも彼ら以前にも,古くはジンメル,デューイから,ピエール・ブルデューやノルベルト・エリアスなどの学説も関係論的なアプローチとして位置づけなおされている.最近ではブルーノ・ラトゥールのアクターネットワーク理論との関係も指摘されている.
方法論的には,ホワイトらのネットワーク分析やブルデューの対応分析など数理・計量的な手法のほか,マチュー・デズモンドの「関係的民族誌 relational ethnography」など,質的調査からも関係論的アプローチをとる研究があらわれている.また「関係社会学」は関係の時間的変化も重視しており,アンドリュー・アボットの最適マッチング法をもちいたシークエンス分析など「プロセス社会学」との関わりも深い.
これまで関係社会学のムーブメントは,北米,ドイツ,イギリス,イタリア,中国など国際的に波及しているものの,日本ではこれまで「関係社会学」というまとまりで議論がされてきたわけではない.
そこで,本テーマセッションでは,従来の研究を「関係社会学」の視点からとらえることの意義は何かというごく基本的な問いから,古典の再解釈(ジンメル,エリアス,ブルデュー他),最近の理論研究(ホワイト,クロスリー,ラトゥール,アボット他),ネットワーク分析や対応分析,シークエンス分析などをもちいた経験的研究,音楽・芸術,職業経歴,市場や関係的不平等などの応用研究まで,広く<関係>と<プロセス>の社会学に関わる研究を交差させ,日本における<関係>と<プロセス>の社会学の理論・実証研究の展開可能性を探りたい.
③キーワード:関係社会学,ネットワーク,プロセス,ブルデュー,ホワイト
④使用言語:日本語