卒業生の声:社会学を学んだ先輩たちの進路

先輩たちの具体的な声が聞きたいです。
1.在学時に何をテーマとして調査・研究し、その過程で何を学びましたか
2.現在のお仕事に、専攻での学び・経験がどのように活きていますか
3.高校生へのメッセージがあればお願いします

さまざまな分野で活躍している先輩たちをご紹介します。

「社会」を見ることの難しさと楽しさ

「社会」を見ることの難しさと楽しさ

結城翼さん
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 生活相談・支援事業および広報・啓発事業担当(東京学芸大学 教育学部中等教育教員養成課程社会専攻2015年卒業/バーミンガム大学国際開発学研究科Poverty, Inequality and Development Course修了) 仕事の概要:主に生活困窮者への相談対応のほか、市民向けの講演や行政に対する政策提言活動

1.私は学部時代、貧困・社会的排除をテーマに山谷地域で野宿者支援のフィールドワークを行いました。修士ではフィリピンのケソン市におけるジェントリフィケーション(立ち退きを伴う再開発)と植民地主義、国際機関による「支援」の関係を研究しました。
これらを通じて、次のことを学ぶことができたと思います。第1に、貧困等の社会問題は特定の地域で完結したり個人の選択だけで説明できるものではなく、社会構造との関係で理解されるべきであること。第2に、社会を論じる時、机上の空論や独りよがりにならないよう、人びとが社会をどう捉え、行為しているのかを現場に立って探求することが大切だということ。

2.フィールドワークを通じて、自らの常識を疑うことの重要さを身に染みて感じたことが、さまざまな背景を持つ人への相談支援をする上で重要な経験となっています。また、社会構造を捉えるために、統計や行政文書等を分析しなくてはなりません。データを用いて「社会」なるものに向き合ってきたことは、調査・提言という今の仕事にとても役立っています。

3.社会学をするということは「社会を社会の中から見る」ということだと思います。だからこそ、単にデータを集めるだけでなく社会とは何か、自分や他者は社会をどのようにして見るのか、といったことを考えざるをえません。それは厄介で面倒なことかもしれませんが、そうして得られる経験はいろんな場面に活きてきます。ぜひみなさんにも社会学の世界に足を踏み入れてほしいな、と思います。

世の中は、声の大きな者 = 強者の声だけが通る社会ではいけない!

世の中は、声の大きな者 = 強者の声だけが通る社会ではいけない!

上田薫さん
 株式会社エフエムナックファイブ (FM NACK5) 管理部(中央大学文学部社会学科1996年卒業) 仕事の概要:FMラジオ局の経理部門の責任者として、社員のお給料からラジオ番組に出演したタレントや芸能人の出演料など、会社の「お金の出入り」に関する全てをチェックしています。

1.社会学専攻コースで、留年したため卒論のテーマは2本
1年目「同性愛者のライフヒストリー調査」、2年目「新・新興宗教にハマる若者達」
当時は意識しなかったが、結果的に「“弱者(マイノリティー)”にとって、この社会の生きづらさ」について調べた2年間となった。
世の中は「声の大きい者達」の意見が大多数の考えと取られがちであるが、様々な思いを抱える「物言わぬ弱者(サイレントマイノリティー)」が実はこの世界にはかなりの大多数おり、彼らの意見はなかなか受け入れられにくい、という現実を学んだ。

2.ラジオというメディアは、放送を聴いてくれるリスナーの顔が見えない。
だからこそ、ラジオに携わる全員が丁寧な番組作りを心がけないと、「意見を言う者達」の方のみを向いて、「情報弱者や社会的弱者」への配慮が欠けた、「独りよがりで傲慢なラジオ放送」になってしまう。
学生の時に社会学で「物言わぬ弱者(サイレントマイノリティー)」の存在を強く意識する事を身につけられたのは、この会社を志望した大きな理由にあり、今も財産となっている。

3.社会学の勉強は、その字の表すとおり「社会の様々な事象について学ぶ」ことです。
世の中の現実が相手なので、決して甘くやさしいものではないかもしれません。
また、学んだ事が社会人になってからそのままのかたちで役に立つとも限りません。
私だって、「同性愛や宗教」は、今の経理という仕事には直接関係ありません。
しかし、いつかどこかで必ず役に立ちます。それも自分が思ってもみなかったかたちで。
社会学は、自分の人生や生き方に大きく影響を与える学問です。
いま皆さんが生きているこの社会に対して色々とモヤモヤした思いがあるあなた、社会学を学んでみてはいかがですか。

社会学は、自分の将来を考える/決めるための「ツール」になる

垣東大介さん
NHK制作局(東北大学文学部社会学科1996年卒)
仕事の概要:ディレクターやプロデューサーとして、旅番組やクイズ番組といったエンターテインメントを中心に作ってきました。これまでに担当した主な番組は、『ブラタモリ』や『鶴瓶の家族に乾杯』などです。

1.アメリカの政治学者、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』というテキストをベースに、民俗学や社会調査の成果を取り込みながら、「ことばと国家の関係」や、「日本という国のかたち」を研究しました。
生まれたときから目の前にある絶対的にみえるものが、実はそうではないことを、一つ一つ順を追って解きほぐしていく作業。一見あまりつながりがなさそうな事柄を、パズルのピースを埋めていくように関連付けていく作業。
どちらも社会学の基本的なアプローチだと思っていますが、これによって、「自分が知らないことを知ること」が、とても楽しいエンターテインメントなんだと、改めて気がつきました。

2.いまの仕事に役立っている、社会学を学んだことで得た3つのアイテム。それは、Ⅰ.先行する研究や調査を探し当てて、もっとも大切なところをラフに把握する力。Ⅱ.本当に正しいのか、常に比較・検証する癖。Ⅲ.まったく予備知識がない人にも伝わるよう、分かりやすくかみ砕こうとする思考法、です。
これまでつくってきた『家族に乾杯』や『ブラタモリ』で、私たちが住むこの国の面白さや豊かさを、そこに暮らす人の営みや地質・地形、歴史などいろんな角度から発見し続けることができたのも、大学時代に社会学にふれたことが大きいと思います。

3.社会学とは、自分がもとから興味のあるモノゴトの「正体」を探る学問だと思っています。社会学には、先人が開発したモノの見方のいろんな「物差し」があります。まずはその物差しの基本的な使い方を学び、そして自分なりに使いこなすことができれば、自分が興味のあるモノゴトのそもそもの成り立ちや構造、社会に及ぼす影響はもちろんのこと、なぜ自分がそこに惹かれるのか、を明らかにすることが出来ます。
社会学に触れることは、みなさんがこの先に何をしたいのかを見極めるとき、そしてやがて世の中に飛び出していくときに、きっと大きな財産になると思います。

社会学の多様性から得たもの

今竹文香さん
富士ソフト株式会社 エリア事業本部エンベデッドシステム部(中京大学現代社会学部現代社会学科2018年卒業)
仕事の概要:システムの設計、プログラミング、システムのテストを行っています。

1.卒業論文では「ライフイベントによる社会意識の変化」をテーマに、パネル調査(同一個人を追跡した調査)のデータを借用して分析するということを行いました。先行研究が少ないことと、研究テーマに合わせて自分で収集したデータではないことから、思うように仮説が立てられず試行錯誤しましたが、先生や同級生の助言もあり、ひとつの型にはまらず多角的に考えることを学びました。

2.システムに不具合が見つかったときに、不具合原因の見当をつけ、検証し、修正するプロセスは、社会調査で繰り返し行った「仮説→分析→結論」のプロセスに似ています。
また、はじめに見当をつけた箇所の影響がみられず、別の視点からアプローチするために思考を切り替えるとき、卒業論文で試行錯誤した経験が役立っていると感じます。

3.現代社会学部卒業というと、たいてい「何を学んでいたの?」と聞かれます。
社会学はありとあらゆる事物を研究対象にできます。私は学年によって異なるテーマで調査を行いましたし、同級生の卒業論文のテーマも様々でした。
いま関心のあるものを突き詰めることも、よく知らないことに触れることも可能な 分野です。様々な知識を吸収して、多様な視点で考える力を養えると思います。

社会学には無限のフィールドが広がります

社会学には無限のフィールドが広がります

齋藤亮さん
公益財団法人日本生産性本部
ICT・ヘルスケア推進部(早稲田大学教育学部教育学科2015年卒業/法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻修士1年 在学中(2019年時点))
仕事の概要:メンタルヘルス・健康経営・働き方改革等に関する企業調査およびセミナー・シンポジウムの企画運営

1.社会学との本格的な接点は、3年次に教育社会学ゼミに所属したことが始まりです。ゼミでは社会調査の技法を理解するために『文化資本(幼少期の読書量・課外活動・家庭教育等)とキャリア意識の関係性』をテーマに複数の大学でアンケート調査を実施しました。課題意識に基づいた仮説を設定し、分析を通じて丁寧に検証・考察する一連の過程からデータを正しく読み取ることの大切さや目に見えない社会構造を解き明かすことの苦楽を学びました。

2.今の仕事では企業に対してアンケートを実施し、分析結果を報告することが頻繁にあります。担当者との話し合いから企業が抱える課題の要因を予測したうえ調査を実施するのですが、効果的な質問項目を考え、結果を考察するさい、大学で学んだ社会調査やデータ分析の知識・経験が活きていると感じます。またどんな仕事でも課題発見⇒仮説設定⇒分析・検証⇒改善を繰り返すことが求められると思いますが、社会学を専攻すること自体が良い訓練になるのではないでしょうか。

3.人の営みのメカニズムに興味がある方や、いろんな人の話を訊いて新しい発見をしたい方、社会問題を解き明かしたい方にとって社会学はとてもお薦めしたい学問です。まだピンと来ない方が多いかもしれませんが、社会学の対象領域には教育や観光・産業・家族・犯罪などがあり、非常に門戸の広い学問です。きっと入学後でも関心分野を見つけることができるはずです。皆さんが実りある大学生活を過ごされることを心から願っています。

興味を突き詰める経験

栗原瑠璃香さん
株式会社帝国データバンク 業務推進部(武蔵大学社会学部社会学科2014年卒業)
仕事の概要:取引先の与信判断をするために必要な「企業信用調査」を通して企業活動を支援している会社です。多様な企業情報を提供する法人向けインターネットサービスがあり、その運営をする部署に勤めています。会員のサポート、データベースの管理やシステム構築などが主な業務です。

1.卒業論文を執筆するにあたって研究を進める中で「男性か女性か」に規定されないジェンダー・アイデンティティがあることを知り、当事者の方々にインタビュー調査を行いました。実際に当事者コミュニティの場に分け入って交流を深めることから始まったため、一筋縄ではいきませんでしたが、問題関心を持って真摯に向き合うことの難しさと、興味本位だけで終わらせることのできない責任の重さを学んだ貴重な経験となりました。

2.社会学を学ぶ中で得た「当たり前だと思っていたことが実はそうではなかった」という多くの経験が、職場内のコミュニケーションにおいて固定観念にとらわれずフラットに対応する姿勢を心がけることに繋がっています。仕事において何か一つの課題があったとして、その問題点を洗い出して、それに対して何をすべきか、いつまでに、どのように進めるか、そのアクションによって影響が出ることは何か、といった問題解決に対する基本的な考え方も身につけることができました。

3.少し語弊があるかもしれませんが、社会学は「人に関することなら何でもアリな学問」だと思っています。日常生活で感じている「なぜ」について追究してみたいと思う気持ちが少しでもあれば、選択する意義はあると思います。私は、「常識を疑う学問に興味のある人たちが集まるところで学ぶわけだから、きっと面白いだろう」という、いま思えばかなり漠然とした期待を持って「社会学部」を選択しました。実際に入ってみると、想像以上の貴重な出会いがたくさんありましたし、多岐に渡る基礎科目を学習する中で知識を深め、興味のあるテーマを深堀していくという楽しさもあり、選んでよかったなと思っています。

これからの君たちへ

篠部剛志さん
竜王町役場 未来創造課政策推進係勤務(龍谷大学社会学部社会学科2010年卒業)
仕事の概要:町行政の総合調整、町総合計画などのまちづくりに係る各種計画の策定、広域行政の政策や公共交通の政策、地域コミュニティ施策の推進、町民の陳情・要望および苦情受付、町長の特命事項 等

1.在学時は沖縄の歴史や文化をテーマに調査を行いました。主にフィールドワークを中心に現地調査し、書籍などでは発見できない人々の生き方や感情などに触れてきました。
調査の過程において、最初考えていた捉え方が、実際に自分の足で歩き、目で見て、耳を傾けることによって、多くの方々の様々な価値観を知り、新しい捉え方を発見することができました。調査に出向くには労力や経費、時間などがかかりますが、そこでしか知り得ない貴重な情報が沢山埋まっているため、現地に赴くことの重要性を学びました。

2.公務員の仕事は事務作業が多いため、机上の空論だと言われがちですが、私は大学での経験を活かし、出来るだけ多くの現地に赴くことを心がけています。
また、地域の景色や雰囲気、そこに住まわれている方々のお声を聴くことを大切にしています。
まちづくりはまち単位で抱えている問題が異なっていますので、明確な答えはありません。そのため、社会学のように、社会現象の実態や原因のメカニズムをデータなど活用して明らかにしていく手段は、まちづくりを進めていくための重要な方法と考えています。

3.高校生の皆さんの中には、将来に対して不安を抱いている方もいると思います。
その不安を払拭するためには、まず自分が何をしたいのかをしっかりと考える必要があります。私の場合は、自己分析をしっかりと行い、自分が何者であるか、また何をしたいのかを見つめ直してきました。
今が人生において最も重要な時期なので、悔いが残らない選択をし、これからの自分の未来に向け、1歩踏み出してください。

興味関心を追究しながら学んだ社会学のアプローチは自分の持ち味に

冨田茉実さん
ブラザー工業株式会社プリンティング&ソリューションズ事業SOHO・新興国推進部(名古屋大学文学部社会学専攻2013年卒業)
仕事の概要:入社後4年間は人事部にて、主に新入社員や外国籍社員向けの研修企画・運営を担当しました。現在は、プリンティング&ソリューションズ事業にて、プリンターや複合機の海外市場向け営業企画業務に携わっています。

1.卒業研究では、日本で働く高学歴中国人女性を対象として、日本での滞在経験や職場環境がキャリア選択に及ぼす影響とその志向性について研究しました。知り合いゼロの状態から26名の方にインタビューを受けて頂けるまで奔走したことや、語りから結論を導き出す難しさに試行錯誤しながらも論文を仕上げたことは、自分の興味関心を突き詰めるという貴重な経験になりました。

2.人事部で外国籍社員と向き合う際には、外国籍社員側の視点から考察した卒業研究が双方の立場を理解するための基礎となりました。また、事業部での最初の担当国が中国だったので、ビジネス以外の視点から中国社会を眺めた経験は、中国ビジネスを担当する際の出発点になりました。
情報を収集しながら仮説を練り、分析・検証を経て結論を導き出す社会学のプロセスは、市場データや顧客からのフィードバックを踏まえて最適な販売戦略を検討していく、という現在の営業企画業務にも当てはまります。とはいえ、最初に立てた仮説通りに進むことはなかなかありません。明確な解がなくても、状況変化を察知して柔軟に軌道修正していくアプローチを学んだことは、現在の仕事にも繋がっていると思います。

3.ぜひ、今自分が一番関心を持っていることを探してみてください。こんな研究がしてみたいと思ったとき、門戸の広い社会学なら、きっとうまく料理する方法が見つかるはずです。そしてそのまま同じ道に進めば、大学時代の研究は将来に向けた序章になり、違う道を行けば、自分の興味関心を突き詰めた経験がまわりとは違うあなたの持ち味になると思います。