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第94回日本社会学会大会テーマセッションの詳細

【1】芸術は社会の変容を予言する
①コーディネーター:落合仁司(同志社大学)
②趣旨:
芸術は社会に対して独特の位置を占めている。近代社会成立期の18世紀、近代社会成立の鍵となった科学的真理は、近代社会共同体成員に共有された共通思考であり、倫理的あるいは法的正義もまた、近代社会共同体成員に共有された共通感覚であることを、カントはその『純粋理性批判』と『実践理性批判』において主張したにも関わらず、芸術は、より限定すれば美しい芸術、美術は、共同体ではなく個人に固有の感覚における快楽、個人に固有の趣味によって判断される他はないことを、その『判断力批判』において力説した。芸術は近代社会成立の当初から、近代社会共同体の外部、真正の市場、真正の自由、真正の個人が生成される場所に位置していた。
近代社会がその絶頂を迎えた20世紀、芸術は、キュビズム、ダダイズム、シュルレアリズム、抽象表現主義、ポップ・アート、ミニマリズム、コンセプチュアリズム、YBAと18世紀カントが想定していた美しい芸術とは全く異なる世界に到達した。芸術に対する哲学的反省である美学は、この新しい芸術に直面して、改めて芸術とは何かを問い質される。この問いに最も適切な答えを与えたのが米国の哲学者アーサー・ダントーであった。曰く芸術とは、具象化された意味、具象化された固有の思考である。芸術は、必ずしも美しいとは限らないが、芸術家個人に固有の思考を他者の感覚に触れることが出来るよう具象化したものである。共同体ではなく個人に固有の感覚のみならず、個人に固有の思考が芸術の本質的な契機となった。個人に固有の思考の具象化、個人に固有の視点の具象化は、まさしく遠近法と呼ばれるに相応しい。
近代社会において芸術は、個人に固有の感覚における快楽の位相を担っていた。現代社会における芸術は、個人に固有の思考の具象化、遠近法の位相を担っている。近代社会において快楽の追求が社会の功利主義的個人化という変容を招来したように、現代社会において遠近法の追求が社会の視点主義的個人化という変容を招 来すると考えるのは無理のない予言ではないか。
芸術社会学、社会美学、現代社会論、ポピュリズム等、芸術と社会の変容を巡る諸問題への多様なアプローチによる発表を求む。
③使用言語:日本語

【2】Patients Public Involvement: Health Social Movements and Collective Impact
①コーディネーター:細田満和子(星槎大学)
②趣旨:
In modern times, the main disease structure has changed from infectious disease to chronic disease, and many people are now living with illness. Despite the patients’ current situation, society still expects people with disease to behave consistently with the sick role which Talcott Parson’s previously defined. Once people are diagnosed, for example, as a cancer patient, they may lose their job and social participation opportunities and their hope to live. To change this situation, people living with disease do a variety of things, for instance, changing their illness image and repelling social stigma which is related to diseases by collaborating with other stakeholders such as medical and health professionals, persons from the workplace, fellow patients, and their community. Although there are many challenges, we can see the collective impact as a result of this movement. By exchanging information among sociological scholars, this session aims to explore the challenge for stakeholders in society of theoretical and empirical research on the movement of patients and supporters who change this social norm to counter social barriers and stigma, and strengthen discussions on Health Social Movements. Studies conducted at local, national and international levels that contribute to conceptualization and/or methodological and empirical developments in this field are welcome.
③使用言語:英語

【3】猫社会学の理論と方法
①コーディネーター:赤川学(東京大学)
②趣旨:
後世から 21世紀初頭の世界を振り返るとき、人間とペット(コンパニオンアニマル)の関係が最も深まった時代と評価されることは、たぶん確実だろう。「ペットは家族の一員」という考えはいまや日常知となり、日本でも、犬猫の飼育頭数は2003年以降、人間の15歳未満人口を超えて、現在も増え続けている(2019年で猫977.8万頭、犬879.7万頭)。とりわけ猫の飼育頭数は 2016年に犬を超え、平均寿命も15.03歳と、人間と長期の深い関係を結ぶに至っている。動物愛護や地域猫、殺処分ゼロ活動が話題になることも珍しくない。
本セッションの目的は、猫に関する社会学的知見を蓄積し、当事者や当事者とのネットワークを広げ、「猫好きの、社会学者による、猫のための社会学」、すなわち猫社会学の理論と方法を確立することにある。そのために、近年の猫ブームに代表される、猫と人間の関わりの深化が、現代社会のマクロな構造変容によって生じるプロセスを、家族、感情、文化、社会運動などの諸側面に即して記述するとともに、この変容がもたらす帰結を、猫と人間の文明史的考察を通して理論的に解釈することが必要となる。具体的には、ペットと人間の関係を通して家族定義の変容を解析する家族ペット論、ペットロスの深刻さや回復プロセスに注目する感情社会学、動物愛護や殺処分ゼロを目指した活動の展開を解析する社会問題の社会学、近年の猫ブームをファン文化の一環として捉える文化社会学、人間と機械や動物の関係変容を文明史・批判理論の観点から考察するポストヒューマン社会学などが有力な理論枠組みたりえよう。
また研究手法としては、(A)猫を飼い、死別を経験した者や保護猫活動当事者へのインタビュー調査、(B)猫好きの社会的・心理的特性や活動傾向の分析、(C)猫に関する言説のテキストマイニング、(D)上記データの理論的解釈などを想定しているが、それ以外の方法ももちろん可能である。
これらの理論と方法を組み合わせて、猫に関する社会学的知見を総合化することが本セッションの最終的な課題である。猫好きで、猫と人間の関係を研究主題とすることを志す社会学徒の参加を歓迎したい。
③使用言語:日本語

【4】ポストコロナ時代における「労働と生活」
①コーディネーター:清水友理子(浜松学院大学)
②趣旨:
本テーマセッションでは、「ポストコロナ」と呼ばれる時代において重要性を増すであろう「労働と生活」 を捉える研究を募集する。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、日本に住む人々は、「ステイ・ホーム」を求められ、在宅勤務やワーケーションといったような、これまでの雇用や職住分離を前提とした働き方とは異なる労働の在り方の変容が加速してきた。
日本社会に急激な変化が起こる今、日本型社会保障の背後にある労働と生活を切り離す論理や、コロナ禍に顕在化した社会保障制度の問題点、経済活動が生活の場に入り込むことによっておこる労働と生活の変容過程、そして「労働と生活」を捉える方法論を検討する研究は急務である。
これまで賃労働空間は近代化によって生活空間から切り離されてきたが、このように、在宅勤務が前提となったときに、再び賃労働が生活空間と接合されようとしている。では、賃労働とは切り離されてきた生活の場である「家庭」「暮らし」の中に賃労働が入り込むことによって、いかなる変化が起こるだろうか。この変化を捉えるには、当然のことながら多面的な要素の検討が必要となる。
報告内容は、次のようなものが想定される。⑴労働が生活世界から切り離されてきた歴史的過程や境界の変動を明らかにするもの。⑵育児・介護といったケアワークにおける労働と生活の関係を、家族だけでなく、市場やコミュニティ、政策といった要素との関わりのなかから検討するもの。あるいは、⑶エッセンシャルワーカーや地場・宿泊・飲食産業従事者などを対象に、地域社会やコミュニティという視点からコロナ禍における「労働と生活」を捉える研究などである。
本テーマセッションでは、「労働と生活」を切り口としながら、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を契機にジェンダー、エスニシティ等の境界が再編される社会における新たな分離と交差を捉える手がかりを議論したい。
③使用言語:日本語

【5】「働くこと」の社会学を再考する:産業・労働社会学の21世紀的展開と展望
①コーディネーター:中川宗人(青森公立大学)
②趣旨:
「働くこと」は社会生活の重要な側面を形成していることから、社会学にとって常に何らかの形で分析対象となってきた。特に産業・労働社会学は意識的にこの課題を担ってきたといえる。他方で産業・労働社会学は「労働研究」という学際領域にも属していることから、その主たる関心は、20世紀後半の社会経済状況において確立した日本的雇用システムに代表される企業社会の構造を分析することに向けられてきた。そこからは多くの知見が蓄積されてきたが、近年では、企業や労働を研究することの社会学独自の意義を十分に展開できていないと思われる。
しかし今日、大企業の雇用システムを中心とする労働問題だけでなく、社会のより多様な局面において、働くことを媒介とした複合的な社会現象が重要なトピックとしてたち現れてきている。そしてこれらの現象にアプローチしているのは、産業・労働社会学以外の連字符社会学、例えば教育、家族、移民、福祉、ジェンダー、社会階層、社会運動等に関わる社会学であり、それらによって様々な側面から労働現象を捉える研究が蓄積されてきている。しかしそれらは相互に独立して営まれているがゆえに、現代日本社会における働くことの分析において、社会学として何をなしえているのかのアイデンティティが見えづらくなってしまっている。
本テーマセッションではこうした状況を克服するために、産業・労働社会学の立場からの研究だけでなく、多様な連字符社会学において実践されている、働くことをめぐる社会学を参集し、改めて21世紀の日本社会における「働くこと」を社会学として明らかにしていく意義やアイデンティティを浮かび上がらせていきたい。
具体的には、対象においては多様な労働者カテゴリーや職業といったミクロレベルから、様々な規模の企業・組織といったメゾレベル、そして制度や社会階層といったマクロレベルまで、方法においては質的/量的/歴史等、社会学から働くことを問うことに意義やアイデンティティを感じている研究者が、個別の分析を通じて互いに協働し、新しい展望を構想できる場としたい。
③使用言語:日本語

【6】「歴史社会学」の諸実践と理論的・方法的反省
①コーディネーター:坂井晃介(東京大学)
②趣旨:
「歴史社会学」のアプローチはきわめて多様である。それによって豊かな成果が生み出されてきた一方、この多様さを俯瞰的に理解する作業は不足しているように思われる。とくに日本における「歴史社会学」は、欧米での諸研究を断片的に摂取しつつ独自の発展を遂げてきたため、理論や方法についての整理が一層難しくなっている。
英語圏では、Charles Tilly や Theda Skocpolをはじめとする国家論的な歴史社会学の登場以降、比較分析を軸としつつ、特定の視座から大局的に近代社会の諸現象を明らかにする分析が展開されてきた。ヨーロッパでも、「歴史的社会科学」の引き継ぎ(と離別)や、言説分析や統治性論を踏まえた歴史社会学的研究の蓄積がある。
日本では 2000年代以降、欧米の動きからほぼ独立して、言説分析の(反)方法(友枝・佐藤編、2006、『言説分析の可能性』)や歴史資料への「向きあい方」(野上・小林編、2015、『歴史と向きあう社会学』)など、歴史資料と社会学の結びつきについて多くの関心が向けられてきた。他方で社会学の各下位分野では、既存の社会学理論の批判的検討を目的とした歴史研究が積み重ねられ、「歴史社会学」という呼称が広く用いられて いる。
そこで本テーマセッションでは、こうした多様な「歴史社会学」について、理論的・方法的な反省を踏まえた諸実践の成果を共有することが目指される。単一の基準に基づいて「歴史社会学」の意味と内実を確定するのではなく、いかなる研究蓄積を踏まえ、どのようなプロセスを経て成果を得ることが「歴史社会学」とみなされうるのかを提案・吟味し合い、このアプローチの多様性がもたらす可能性と限界を議論する。 例えば、⑴研究プロセスの反省を伴った個別具体的な「歴史社会学」的研究 ⑵「歴史社会学」の理論的・方法的研究 ⑶既存の「歴史社会学」的研究の批判的検討などについての報告が期待される。
③使用言語:日本語

【7】ポスト・フォーディズムにおける消費(者)文化と労働(者)文化
①コーディネーター:松永伸太朗(長野大学)
②趣旨:
社会学で消費と労働という対象は共に重要な位置を占めてきた。製造業中心の労働を前提とした大量生産・大量消費モデルである「フォーディズム」からの変化として、近年の労働編成のフレキシブル化と、消費者主 導による受注産業化を指摘する「ポスト・フォーディズム」という語が現代社会の特徴を表す語として用いられている。この語が現れたことは独立に論じられた消費と労働の関係性が不可分なものとなり、それに伴って社会学の記述も再考する必要が生じたことを意味する。
本セッションでは、ポスト・フォーディズムにおける 消費と労働の関係性を捉えるための議論を発展させる視座をもった報告を広く募集する。本セッションにおいてとくに重要な論点と想定しているのは以下の三点である。第一に、製造業であっても消費者の受注主導のものづくりが求められることになり、就業形態の不安定化や熟練の形成が困難になることである。これは労働者の組織化の阻害要因ともなる。
第二に、サービス業の台頭が労働における消費者の影響を高めることに繋がっていることである。ホックシールドの感情労働の議論から示唆されるように、よきサービス労働者であることは、消費者の目前でサービスの提供にやりがいを感じていると自己呈示しながら働くことを強いられることでもある。ここにフリーランス労働等の柔軟な就業形態が絡むことによって、労働とそれ以外の境界が曖昧化する。SNS労働等で仕事を得続け、その仕事を楽しみ続ける様を提示する等、生活の中で労働者として振る舞い続けることが要求されることになる。
第三に、上記で述べた一連の消費が関わる労働問題を批判的に捉えるには、単に実態調査を積み重ねるだけではなく、消費文化・労働文化を記述めぐる現代社会論を広く模索しなければならない。会社人間論や労働者 の教養主義などをめぐる議論や消費社会論はすでにあるが、こうした記述を現代の状況に合わせつつ多層的に積み重ねる必要がある。。
これらの論点を始め、本セッションでは消費と労働の関係を複層的に捉える視点を有した報告を広く募り、現代社会を捉え返す社会学的な議論を期待したい。
③使用言語:日本語

【8】アート・ライフ・社会学
①コーディネーター:高山真(立教大学)
②趣旨:
相互行為としてのインタビューを介して他者の記憶に触れる社会学は、その経験をどのように表現するのか。ライフストーリー研究や感情社会学の領域で議論されてきたこれらの問題について、調査と表現という視点から考えたい。こうしたテーマに関連する社会調査の認識を示した『現代エスノグラフィー』(2013、新曜社)はオートエスノグラフィの手法を紹介している。この解説によると、岡原正幸が「家族と感情の自伝」(『ファミリズムの再発見』1995、世界思想社)で試みた「私」の記述は、社会学におけるオートエスノグラフィの萌芽的な試みと位置づけられる。
感情社会学を形成してきた岡原を編者とし、『アート・ライフ・社会学』(2020、晃洋書房)という書籍が出版された。本書には「エンパワーするアートベース・リサーチ」というサブタイトルが付され、岡原は、アートベース・リサーチという営みの本質に触れる実践として社会学の授業におけるライフストーリー・インタビューを演劇により表現する試みについて考察している。この授業では、語りえないものや、生きづらさが自分史やインタビューをとおして表現され、そのプロセスには社会学の営みがあるという。
アートベース・リサーチと質的調査の領域で積み重ねられてきた相互行為としてのインタビューはどのような関係にあり、アートベース・リサーチが主張するエンパワーとは何を意味しているのだろうか。それは、他者の語りを聞くことに伴い生じる主観的な現象であるはずだが、その体験はどのように表現され、いかなる意味を与えられるのか。これらのテーマをめぐり、インタビューにともない調査者の自己に生じる感情を表現するオートエスノグラフィの可能性と課題について考えたい。本セッションでは、オートエスノグラフィの実践、そのメタな考察、あるいは質的調査に伴う自己の探究にかかわる報告を広く募集する。
③使用言語:日本語

【9】不妊治療の健康保険適用は、少子化改善につながるのか
①コーディネーター:乙部由子(金城学院大学)
②趣旨:
菅政権では、これまで実費だった高額な不妊治療の一部が健康保険の適用になることを少子化対策の1つとして実施予定である。
だが、健康保険適用の対象となる予定の ART(体外受精、顕微授精)を行うものは、現状でいえば、女性の場合、35歳以降から40歳代が中心であり、妊娠できる確率、つまり、妊孕力(にんようりょく)は決して高くない。また、不妊治療のなかでも ART(体外受精、顕微授精)を選択する女性は、半数近くが卵子の老化により自然妊娠が難しいからであり、生物学的要因である年齢の壁は、大きい。不妊治療を行い、妊孕力を高めるために努力しても、子どもを授かれるわけではなく、年齢が高いほど難しい。妊娠時期を遅らせた要因の1つには、 職業上のキャリア形成を優先したことにあり、キャリアの展望がみえてきたところで、妊娠を望んでもすでに、自然妊娠が難しい身体状態になっている。
仕事と不妊治療の両立には、育児や介護とは異なり、治療のための休暇は有給休暇や社内独自の制度しかなく、病院への通院回数も多く、在院時間が半日近くになりがちなこと、突然、明日、明後日の来院を医師に求められることもあり、両立のための課題は、山積みである。さらに、何らかの制度があったとしても、職場で、不妊治療のことを言いづらい環境があることも事実である。そのため、健康保険適用の対象となる予定の ART(体外受精、顕微授精)を利用し、子どもを授かれるものは、ごく僅かだと考える。
働く女性が多いという実情を踏まえれば、育児・介護休業と同じように治療のために休暇を時間単位で取得できるような法律を整備し、治療との両立に向けた取組を平行して進めていくことが必要である。
そこで、このセッションでは、不妊治療の保険適用が少子化改善につながるのかについて、医療、労働環境、 社会保障制度等、様々な論点から、各自が自由に報告し、最後に、全体のまとめをして締めくくりとしたい。
③使用言語:日本語

【10】家族からの排除/家族への排除:入所型施設と脱施設化の課題
①コーディネーター:高橋涼子(金沢大学)
②趣旨:
近年、様々な支援ニーズをもち福祉サービスを利用する当事者自身が、自らのニーズの主体として、受けるサービスの決定過程や政策形成に参画する当事者主権が求められている。
障害者政策においては、障害のある人の地域社会への包摂と当事者主権の実現が国際的潮流となるなか、大規模な入所型施設の縮小や閉鎖と地域生活への移行という脱施設化と、障害のある人のケアの脱家族化という2つの政策動向が、各国・地域の障害当事者と家族の生活に様々な影響をもたらしている。障害当事者とその家族はそれぞれに社会運動を形成し、協同したり対立したりしながら、障害者政策に参画してきたが、障害当事者の主流化と比較して、障害のある人の家族の位置づけは「代弁者」にとどまりがちで、ケアラーとしてのニーズをもつ権利主体という積極的な位置づけが主流化しているとは言えない。また福祉予算の削減を意図してインフォーマルなケアラーにとどまらせようという政策圧力も存在する。
脱施設化は、障害のある人の家族、特に親に、再び日常的に直接的なケアを担わなければならないという強い不安や反発を引き起こすことがある。グループホームやパーソナルアシスタンスといったサービス提供体 制が不十分なまま家族のケア責任が重い実態を放置すれば、家族のみがケアを抱え(家族への排除)、家族が ケアしきれない場合には家族から切り離して入所型施設に収容する(家族からの排除)ことになる。「施設を望むのは家族である」という言説は一見、家族を主体として尊重しているようで、実際には、権利性がなくケア責任のみ過剰に負わされるインフォーマルなケアラーとしての家族が障害当事者ごと地域社会から排除される現実を隠蔽している。ここに、ケアする人・ケアされる人それぞれの「ケアする権利」「ケアされる権利」「ケアすることを強制されない権利」「ケアされることを強制されない権利」から成る「ケアの人権アプローチ」(上野千鶴子 2011:60)は存在しない。
本セッションでは、障害のある人にとどまらず子どもから高齢者まで、様々な支援ニーズをもつ当事者のケアを家族に依存する社会的傾向のもとでの、入所型施設ケアをめぐる当事者と当事者家族それぞれの葛藤といった具体的事例から、脱施設化と地域社会の課題、ケアと家族の社会的位置づけといった政策の方向性まで、幅広く検討していきたい。
③使用言語:日本語

【11】社会学コミュニティにおける社会科学データアーカイブの役割
――研究データ再利用・公開のためのインフラとその活用
①コーディネーター:朝岡誠(国立情報学研究所)
②趣旨:
昨今のオープンサイエンスの進展に伴い、様々な分野で研究データが公開され、再利用されるようになってきている。社会科学分野では、データアーカイブが研究者から提供された研究データをクリーニングし、再利用できるように公開している。量的調査研究の分野では、二次分析研究は一般的な研究スタイルとして確立され、研究雑誌への投稿や研究助成申請の際に研究データの公開が推奨されるようになるなど、社会科学研究においてデータアーカイブが果たすべき役割は大きくなってきている。
海外では、Findable、Accessible、Interoperable、Reusable(FAIR)の原則からデータアーカイブを取り巻くデジタルインフラの整備が進められている。データとその内容を記述するメタデータの標準化によりインフラ の規格を標準化し、認証フェデレーションを用いた利用申請システム、セルフアーカイブシステム、データアーカイブとシームレスに連携したオンライン分析システムなどを開発しており、学術分野や国境をこえたデータ共有を実現している。日本では、日本学術振興会が2018年度から社会科学データのインフラストラクチャーを整備する事業に取り組み、研究データの共有を促進するインフラを整備しているが、社会学コミュニティ が研究データを公開、再利用するためには、どのようなインフラが必要なのだろうか。
本セッションでは日本におけるデータアーカイブの状況を整理し、社会学コミュニティが研究データを公開・再利用するために必要なインフラについて考えてみたい。メタデータの規格、データアーカイブへの研究 データ提供、研究データのダウンロード申請、社会科学データのオンライン分析システムの実践例との課題を議論することで、社会学研究者にとって望ましいデータアーカイブ像を探る機会としたい。データアーカイブ の運営者やインフラ設計者はもちろん、二次分析や統計・社会調査教育でデータアーカイブを活用している研究者からの報告も広く歓迎する。
③使用言語:日本語