声明「基幹統計における不正問題への対応と社会学の協力について」
2019年3月27日
日本社会学会理事会
社会学系コンソーシアム理事会
厚生労働省で明らかとなった毎月勤労統計調査の手続き不正に続き、統計法で定められた国の基幹統計の実施や集計において多くの問題があったことが、明らかとなっています。政府統計とそれを支える調査の不適切さ、そして背景にあると考えられる統計調査部門の弱体化は、憂慮すべき事態と言わざるを得ません。公的な統計調査は、社会の実態や課題を明らかにし、それに基づいた政策を具体的に検討するための根幹を成す資料です。たとえば毎月勤労統計調査の結果は最低賃金や社会保障の基礎となり、その不正は多方面に影響を及ぼします。統計の作成過程の瑕疵は、単に個別政策のみならず、政府の行政運営全体に対する内外の信頼を大きく揺るがす結果を招きます。政府において、原因究明と再発防止策の検討を早急に進めることを要望するとともに、求めがあれば専門的な見地から日本社会学会および社会学系コンソーシアムが協力をすることを表明します。
今回の統計不正には、法令違反に関わる問題、統計学的な不適切さに関わる問題、そして統計調査を支える組織や人員に関わる問題という、関連しながらも異なる側面の問題が関わっています。この点を認識し、法令違反に関わる問題に関して、関係省庁および立法機関が、一刻も早く今回の事態をもたらした原因を究明し結果を公表することを強く要望します。その上で、以下の諸点が遅滞なく進められることを求めます。
統計学的な不適切さに関わる問題については、統計調査に関わる関係省庁が、次のような対応を速やかにとることを要望します。第一に、不正の結果歪められた統計情報について、専門家による透明性を備えた検証作業も含め、可能な限り適切な手続きを通じて修正、修復を行っていくことを求めます。第二に、政府の統計調査に対する失われた信頼を早急に回復することをめざし、基幹統計の実施手続きについて必要な再点検を行い、その結果を公表するとともに、機敏な改善策を取ることを求めます。
統計調査に関わる組織や人員に関わる問題については、政府が次のような対応をとることを要望します。第一に、統計調査への信頼性を確保するためには専門知識に基づく企画実施が不可欠です。教育研修や経験蓄積を含め、政府の統計調査を現場で支える体制の強化を求めます。博士号・修士号取得者など専門的職能を備えた人材の採用や参画を進めることも課題解決の一助となると考えます。第二に、統計調査の信頼性を確保するためには、個別的利害に基づく政府内外からの圧力から、統計調査の手続きがしっかりと独立していることが不可欠です。信頼性確保に向け、統計委員会の役割も含め、基幹統計の運営体制を見直していくことを要望します。
社会学および社会福祉学など関連する学問分野は、社会の趨勢や構造を捉えるためさまざまな手法を駆使していますが、そのなかでも、政府の統計調査が提供するデータの分析は重要な位置を占めています。と同時に、社会学者は、自ら多くの社会調査を実施し、時々刻々と変化する社会の実相に迫る努力を重ねてきています。こうした社会調査を責任ある形で実施するため、日本社会学会では日本社会学会倫理綱領およびこれに基づく研究指針を定め、調査倫理の確立に大きな力を注いできました。また関係の学会・団体もそれぞれ独自に同様の努力を重ねてきています。
今回の事態は官庁による統計調査をめぐる不正ではありますが、調査全般に対する疑念や危惧が社会において広がる可能性があることを、同じく各種調査を実施し統計を利用する社会学者として憂慮しています。調査への社会的信頼の喪失は回収率の低下を招き、結果的に調査全般への一層の信頼低下を招きかねません。
私ども、日本社会学会理事会、および日本社会学会を含む31の学協会の連携体である社会学系コンソーシアム理事会は、調査統計への信頼を確保するため、大学・大学院等での倫理面を含む社会調査教育を充実させ、専門性を備えた優れた人材を育成するための努力を引き続き継続してまいります。また、政府・地方自治体等における各種統計調査の一層信頼ある形での実施を目指した検討作業にも、積極的に協力していく所存です。