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学会内委員会

2025年農林業センサス農山村地域調査(農業集落調査)の廃止反対の声明

2025年農林業センサス農山村地域調査(農業集落調査)の廃止反対の声明

日本社会学会理事会は、2025年に行われる「農林業センサス農山村地域調査(農業集落調査)」(以下、集落調査)を廃止するという農林水産省の方針に強く反対する。
以下にその理由を述べる。
集落調査は、1955年の臨時農業基本調査を始まりとし、1960年農業集落調査が第1回目の農業集落センサスとなって以降、5年ごとに継続されている。農林水産省は、この集落調査の廃止を打ち出した。2025年農林業センサス研究会において、複数の委員から廃止案に対する疑問の声があがっているにもかかわらず、農林水産省側は廃止ありきで応答している。
1955年集落調査における農業集落の把握に際しては、鈴木榮太郎の自然村概念など農村社会学の知見が出発点となっている。また、現在の集落調査の原形である1970年集落調査の設計に参画したのは、社会学的観点に基づいて集落研究を行なってきた、渡辺兵力、川本彰、松原治郎ら1970年世界農林業センサス研究会農業集落部会メンバーであった。1970年集落調査においては、単位的地域であると想定された共同体的集落の存在を統計的悉皆調査で確認しており、農林業センサスの諸結果の集計単位としての農業集落の利用が始まった。
この集落調査によって戦後農村の変化が明らかになり、新しい課題に対応すべく地域社会学が生まれることにもつながった。さらに現在は、農業・農村の多面的機能の解明に、集落調査は基本データを提供している。持続可能な社会の基礎単位が集落であることが示され、環境問題を論じるにあたってもこの集落調査データは不可欠である。農林水産省は、農林業センサス農林業経営体調査結果を農業集落別に編集することをもって、農業集落調査の廃止に伴う代替案としている。しかし、個々の経営体を地理的領域=集落でまとめるだけでは、集落をとらえたことにはならない。個々の経営体は経済活動を行なっているのみならず、生活体として共同活動を行なっている。「寄り合いの開催と地域活動の実施状況」「地域資源の保全」「実行組合の有無」という現在の調査項目は、共同活動がなされる空間を社会的範域を集落ととらえる方法論となっている。集落概念によってはじめて、集落の社会的機能を把握することができる。集落営農組織や多面的機能支払交付金対象組織は、この集落機能が具体化したものである。また、小規模・高齢化を指標としたときに「限界集落」とみなされたとしても、社会的機能がはたされていること、すなわち限界ではないことをとらえることができるのも集落調査の強みである。1970年調査以来の、空間を地域と社会との2重の意味をもつ〈集落〉という総体でとらえることの意義は、今もって国土形成の基本的な構成要素の把握を可能とすることにある。
くわえて、5年ごとに継続されてきたことによって集落の時系列的変化を追うことを可能としている点、全数調査によって集落の精緻な分析を可能としている点は、さまざまな学問分野の理論構築や政策立案にたいして、基礎資料・根拠データを提供していることを意味する。食糧生産拠点である農村、洪水などの防災拠点としての中山間地域といったことを考えたとき、農業集落の問題は都市生活にも直結している。また、大学教育における社会調査実習・フィールドワークなどにおいては、農林業センサス・集落調査の結果分析は不可欠であり、学生に根拠ある議論を指導する際の教材としての意義も大きい。
以上、持続可能な日本社会の形成における基盤的役割を担っている集落の現状を総体的・継続的に把握する重要性に鑑みて、2025年農業集落調査廃止の方針に強く反対する。

2022年11月2日

一般社団法人日本社会学会理事会