開催趣旨
日本で移民1.5世や2世という言葉が使われるようになり、さまざまな舞台で活躍する姿がみられるようになって久しい。ところが移民研究の領域では、1.5世や2世は研究対象でこそあれ独自の視点をもつ研究主体とはみなされてこなかった。しかし、日本で学校教育を受けた世代がすで移民研究の世界に進出しており、当事者ならではの成果を発信する機は熟している。このシンポジウムでは、自伝(autobiography)とエスノグラフィー(ethnography)を合わせたオートエスノグラフィーという方法を用いて、10人の研究者が自らの移民経験を分析する。タイトルやプロフィールが示すように、それぞれの報告では従来の研究が見過ごしてきた事柄に光をあてて、新たな見方を提示していく。
日時:2023年1月22日(日)13:00-18:00
場所:ハイブリッド開催
早稲田大学大隈講堂小講堂(地下鉄東西線早稲田駅下車7分)
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_110530/data/kikin-kaijo_waseda.pdf
オンラインでの参加方法:以下にアクセスしてください。
https://list-waseda-jp.zoom.us/j/99020239797?pwd=cUJNWHNCZzFuY2RCK3V4cU1aVlk3dz09
パスコード:476998
プログラム
13:00 趣旨説明 大川ヘナン(大阪大学大学院)
第1部 司会 王昊凡(中部大学)
13:05 樋口直人(早稲田大学)「オートエスノグラフィーとは何か」
13:25 大川ヘナン「大学進学は何故こんなにも難しいのか?――報われない努力に直面した「私」」
13:45 南誠(梁雪江)(長崎大学)「拘らないことへの拘り――ある中国帰国者三世の生活世界から見えてくるモノ」
14:05 劉昊(LEC大学院大学)「私にとっての特別な場所――「店」と私の小さな物語」
14:25 休憩
第2部 司会 オチャンテ 村井 ロサ メルセデス(桃山学院教育大学)
14:40 王昊凡「わたしたちは日常的で些細な単一民族神話に抗うことができるか」
15:00 小波津ホセ(獨協大学)「「日系人」であると認識したペルー人――移動で生成された自己定義」
15:20 ヨシイ オリバレス ラファエラ(東京大学大学院)「コミュニティと私――在日ブラジル人女性のネットワーク形成過程のオートエスノグラフィー」
15:40 白皓(明治学院大学)「氏名と国籍の変更による自己の一部の喪失と開示、そして矛盾――中国ルーツの第二世代である日本語教師としての私が経験した「アイデンティティ・クライシス」・回復・矛盾の過程」
16:00 休憩
第3部 司会 南誠(梁雪江)
16:15 オチャンテ・カルロス(奈良学園大学)「日本でマイノリティとして生きる――父親として子どもと文化継承の試み」
16:35 オチャンテ 村井 ロサ メルセデス「日本で信仰継承をする私の物語――宗教的アイデンティティの継承と移民家族の方策」
16:55 山崎哲(王哲)(一橋大学大学院)「中国帰国者になる」
17:15 質疑 司会進行 白皓
18:00 閉会
報告者プロフィール(登壇順)
大川ヘナン
大阪大学大学院博士後期課程、専門は教育社会学。ブラジルパラナ州生まれ。8歳で来日。小学校2年生から高校まで日本の公立学校で学ぶ。日本とブラジルで大学進学を失敗した経験から教育達成に関する研究を始める。主な著作として「在日ブラジル人二世の教育達成を阻むものは何か」(多文化関係学19巻)、「在日ブラジル人としての「私」の移動 ――オートエスノグラフィーから捉える存在論的移動」(移民研究年報28号)。
樋口直人
早稲田大学人間科学学術院教員、社会学(移民研究、政治社会学、社会運動論)。
南誠(梁雪江)
長崎大学多文化社会学部教員、専門は歴史社会学、国際社会学。中国黒龍江省生まれ。中国残留婦人の祖母の呼び寄せで1989年に来日(定住⇒永住)。大学院生時代に「中国帰国者」と出会ったことを機に、「当事者」研究を始める。主著に『中国帰国者をめぐる包摂と排除の歴史社会学』(明石書店)、「「当事者」研究をする「私」のオートエスノグラフィ」(『移動とことば2』くろしお出版)等。
劉昊
中国北京市生まれ。親の仕事の関係で、8歳(1993年)で広島県福山市に渡り、小学校から大学院まで全ての教育を日本で受ける。自身の経験をきっかけに、現在は、在日中国系第2世代の育ちに関する研究を行っている。オートエスノグラフィーに関する著作として、「在日中国人ニューカマーとしての『私』の成長物語――オートエスノグラフィーを手がかりに」(『日中社会学研究』第26号、pp.78-91、2018年)がある。
王昊凡(おうこうはん/Wang Haofan)
1987年生、90年初来日、「中国籍」。IT技術者の父の「家族滞在」から「定住者」を経て、現在は「永住」。博士(社会学)、グローバル化時代における〈日本文化〉のゆくえについて、食文化や観光消費を題材に調査・研究している。著書に『グローバル化する寿司の社会学――何が多様な食文化を生み出すのか』(単著、2022年、ミネルヴァ書房)、『中国都市化の診断と処方――開発・成長のパラダイム転換』(分担執筆「8章 岐路に立つ癒しの里・由布院温泉」、2014年、明石書店)。
小波津ホセ
ペルーで“Soy Nikkei(私は日系人です)”と主張する機会があっても日本ではない。日本での「日系人」は行政手続きや研究概念として有用でも自己認識への興味関心を欠いてきた。私は、父ペルー、母日系2世の親を持ち反復する移動を契機に「日系人」としての自己認識を形成した。国家・社会生活・エスニック集団・自己定義を移動することで形成された「日系人」は、他者の固定観念以外にも否認と承認の過程を経て生成された。今回はその経験を紹介する。
ヨシイ オリバレス ラファエラ
1994年にブラジルで生まれ、2歳の時に来日。経済的な困難を乗り越え、日本の高校、大学に進学し、また、複数回海外留学も経験。オートエスノグラフィーでは、私がこれまで関わってきたエスニック教会や留学生コミュニティ、移民支援者コミュニティにおける活動を振り返りながら、当事者の視点から、移民二世の同胞やホスト社会とのネットワークの形成過程を明らかにする。
白皓
明治学院大学非常勤講師(日本語教育)・令和4年度文化庁委託事業「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」浜松市外国人学習支援センター中級クラス日本語教師。南山大学大学院人間文化研究科言語科学専攻博士前期課程修了(言語科学修士)。早稲田大学大学院日本語教育研究科博士後期課程退学。2011年より日本語学校・地域日本語教室の講師、高等学校・大学における留学生向けの日本語教育・アカデミックライティング支援を経て現職に至る。
オチャンテ・カルロス
ペルーリマ市生まれ。1996年来日(当時16歳)。三重県伊賀市の工場で働きながら夜間高校を卒業。その後、大学、大学院へ進学。大学院時代に小学校講師として外国籍の子どもの教育、言語支援に関わり始め、ブラジル人とペルー人の子どもの教育実態調査や言語習得問題についての研究を行う。現在、大学講師として外国につながる子どもたちを支援する活動を行っている。また、日本の小学校に通う2児の父親として、バイリンガル教育及び文化継承に挑戦中。
オチャンテ 村井 ロサ メルセデス
ペルー リマ市に生まれ、15歳の時に来日して公立中学校3年生に編入し、定時制高校を卒業。三重大学大学院を修了した。その後、三重県で外国人児童生徒巡回相談員を経て、現在桃山学院教育大学で准教授を務め、ニューカマーの子どもたちの教育研究を行っている。三重県を中心に多文化共生や国際理解に関わる活動に参加すると共にカトリック教会のエスニックコミュニティと子どもの宗教継承支援を行っている。来日以来、三重県伊賀市に定住している。
山崎哲(王哲)
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程、慶應義塾大学非常勤講師。1985年東京生まれ。日本生まれの中国帰国者三世(中国残留婦人である祖母の日本永住帰国時に両親もともに日本移住)。専門は国際社会学、中国帰国者研究、生活史、日本語教育。論文に「中国帰国者アイデンティティは世代を越えるか―三世の語りを中心として」(蘭信三ほか編『帝国のはざまを生きる-交錯する国境、人の移動、アイデンティティ』みずき書林)など。
共催:早稲田大学人間科学学術院
問い合わせ:早稲田大学樋口研究室(higuchinaoto@waseda.jp)