報告番号322
Simulation of rebellion acts under censorship
東北大学大学院 LIU YINGHAO
Rebellion in China seeks redress of routine instances of injustice for which victims hold the government and its agents responsible. After violent suppression of protest in 1980, rebel or protest in China usually end up with failure due to tight political surveillance. China’s information censorship is one crucial part of the surveillance system that combine legal acts and technique together to curb collective rebel potentials.While confirming the difficulty of any forms of rebellion in China, there is counter-resistance that guarantees the success, such as clans, social media, disguised orgnizations and strategy. However, the previous study seldom concerns the social-psychological factor guarantee the success under authoritarian censorship, here, we propose that arousing sympathetic concern among the public could guarantee the success of rebellion even under tight censorship and test it in an agent-based model. Accordingly, sympathy is the other-oriented feelings that occur in response to suffering. When the suffering is seen as misfortune it elicits sympathy, and when it is seen as deserving it elicit pleasure. Study found that Chinese participates had a slightly higher tendency to link anger and punishment to suffering individuals and viewed them more deserved compared with American counterparts. The explanation may lie with holistic and collectivistic values embedded within society, that witness of suffering was functional to keep individuals in line with traditions and rules. In this vein, it’s reasonable to speculate that lower general sympathy is responsible for the failure of rebellion in China. Because rebellion acts are sending signals that challenge authority and tradition, it is linked with disturbance of social stability and the punishment towards rebellion individuals couldn’t elicit enough sympathy from crowds. On the contrary, when individuals were suffered due to irresponsible government other than personal faults, the sympathy could be aroused and finally make government comprise. Two recent online rebellion acts revealed this logic. Our simulation model considered rebel as self-reinforcing process contains rational calculation and social-psychological concerns. The results shows that when Sympathy/ Censorship reach certain value, the equilibrium appears, that over half of the citizens will rebel; sympathy to others, towards who suffered due to authority, function as the counterforce to censorship, and help rebel sustain longer time. Therefore, by channeling sympathetic concerns with others, civil rights group can challenge the totalitarian authority without mass mobilization. Finally, this study alerts that censorship apparatus not only examine information but also people’s feeling towards others, fundamentally cut off the potential of mass uprising and civil society.
報告番号323
東日本大震災被災地(南三陸町・気仙沼市)における復興に向けて――11年間(2011年~2022年)の参与観察とアンケート調査からの考察
大妻女子大学 干川 剛史
【1.目的】この報告の目的は.東日本大震災被災地の南三陸町と気仙沼市で2011年~2022年の11年間にわって実施した参与観察とアンケート調査による災被地の復興過程の実態把握に基づいて,被災地復興に関わる諸主体間の相互協力信頼関係に基づく関係構造を「デジタル・ネットワーキング・モデル」によって可視化することで被災地復興の今後の課題を解明することである. 【2.方法】 具体的な研究方法は,以下の通りである. 1.「南三陸福興市」における「灰干し」試験販売による参与観察と来場者アンケート調査と 2.「南三陸さんさん商店街」の来場者アンケート調査から南三陸町の復興過程の実態を把握する. 他方で, 3.気仙沼市内のサメの「灰干し」の商品開発と「ご当地グルメづくり」による参与観察と 4.気仙沼「海の市」の来場者アンケート調査から 気仙沼市の復興過程の実態を把握する. そして, 5.南三陸町と気仙沼市において復興に関わる諸主体間の相互協力信頼に基づく関係構造を「デジタル・ネットワーキング・モデル」を用いて可視化して被災地復興の今後の課題を解明する. 【3.結果】まず,南三陸町の「福興市」と「さんさん商店街」及び気仙沼市の気仙沼「海の市」での来場者アンケート調査から,被災地の南三陸町と気仙沼市の課題は,観光施設や交通機関や道路の整備,海産物とイベントを目玉とした各種メディアを活用した集客,若者が働いて暮らせ子どもを産み育てられるような水産業・観光業中心の職場と地域づくりであることが明らかになった. そして,筆者と「気仙沼灰干しの会」等の被災地復興に取り組む諸団体や人びととの間に構築された相互協力信頼に基づく関係構造を基盤として,「地域おこし」の専門家及び商工会議所や気仙沼市等の経済団体や地方自治体からの継続的で全面的な協力を得て「ご当地グルメ」づくりを中心とした「地域おこし」を本格的に推し進めていくことが,被災地復興の効果的な方策であること. 以上のことが本調査研究から明らかになった. 【4.結論】以上の調査研究を通じて,東日本大震災の被災地である南三陸町と気仙沼市の長期にわたる復興過程の実態を把握した上で,被災地復興に関わる諸主体間の相互協力信頼関係に基づく関係構造を「デジタル・ネットワーキング・モデル」によって可視化することで被災地復興に向けての今後の課題を解明することができた.さらに,報告者は,被災地内で復興に取り組む人びととの間に形成された非公式の架橋型相互協力信頼関係を維持しながら,「気仙沼ご当地グルメの会」の取り組みに参加しながら参与観察を行い,他方で,「南三陸さんさん商店」と気仙沼「海の市」での来場者アンケート調査を継続的に実施し,調査結果とそこから得た知見を被災地内で復興に取り組む人びとや諸団体に提供し意見交換を行いながら,南三陸町と気仙沼市の復興の現状を把握しながら,復興に向けての課題を明らかにしていきたい. 文献 干川剛史,2023,「東日本大震災被災地(南三陸町・気仙沼市)における復興の現状と課題」(報告),「人間生活研究」No.33(2023),大妻女子大学人間生活文化研究所,(掲載予定)
報告番号324
釜ケ崎史料アーカイブ――調査史の方法としての個人文書と写真記録
大阪公立大学 櫻田 和也
【研究の目的】戦前大阪市域へ分割編入された旧字釜ヶ崎は、近現代を通じた「社会問題」集積点として断続的に調査研究の対象とされてきた。しかし今、地域では厖大な未公表資料が劣化散逸の深刻な危機にある。これらを研究グループでは史料アーカイブとして目録化し、公表可能なものを精選の上『資料集・昭和期の都市労働者』大阪:釜ヶ崎・日雇《図書資料編》戦後編前期(近現代資料刊行会 2021年3月)に復刻した。 この途上に見出された課題としては写真等の断片的な資料の扱い、法的・技術的あるいは運用上の問題、倫理的配慮の必要性がある。戦後編後期の編纂に向けた検討とあわせて、これらを通時的な都市下層研究に再定位すべく複眼的な史料アーカイブの実装に目下着手している。 【研究の方法】戦前の都市下層については大阪市社会部調査、戦後隣接分野において小山仁示(歴史)杉原薫(経済)水内俊雄(地理)らの蓄積がある。社会学においては土田英雄、大薮寿一、西田春彦らの大阪社会学研究会が、高度成長を経てなお残存した戦災バラック等のスラム問題を社会病理学的な対象として調査史に転機をもたらした。 当時の方法論に内在的な仲村祥一、小関三平らの反省に続いて、解放社会学や寄せ場研究は1980年代、社会病理学の差別性に根底的な批判を加える。現在に至る大阪の都市下層研究はこの系譜にある。だが戦前となると潜入ルポや地域の沿革に言及される程度で、総力戦体制下の動員を掘り下げた研究(吉村智博)以外に連続性の把握は十分でない。戦前戦後を通じた調査史料アーカイブが必須の所以である。 【暫定的結論】具体的には1950-1960年代の調査史料を社会病理学批判から遡及することで、戦後スラム問題としての把握を再定位した。戦前は内務省が過密住宅地区を試行的な改良住宅政策の対象を見定めたのに対して、戦後は建設省の公営住宅事業に帰着する。同時に相次ぐ釜ヶ崎暴動への対処として確立された「あいりん体制」は不可欠な建設日雇労働力の「寄せ場」としての複合的な機能を限定しつつ、1990年代以降の野宿者問題に帰結する脆弱な条件をもたらしたのである。 戦後釜ヶ崎の空間的な変遷は、上畑恵宣写真および土田英雄による1950年代の記録と1970年代以降の中島敏「定点観測」写真を用いて継時的解像が可能となった(代表者)。さらに釜共闘・現闘委の時代に釜ヶ崎へ来た諸党派・無党派活動家の口述史(原口剛)および戦前の「都市下層」空間を生きた人々との知られざる交流を河本乾次文書に見出し(谷合佳代子)無名の人々の記憶に迫ろうとしている。 【今後の課題】さしあたり1930年頃(都市改良期)1950年頃(戦災復興期)1970年頃(あいりん体制の確立)を時代区分として、ポスターでは収集した個人文書から記録写真に注目したアーカイブ研究の方法を共有したい。なお土田文書には日本社会学会で報告された釜ヶ崎調査(第32回 1959年)恵美地区実態調査(第35回 1962年)等の調査史料を含む。これは釜ヶ崎事件(第一次暴動)第二室戸台風(1961年)前後にあたり、中断の可能性を考慮したサンプリング手法にも注目される(川野英二)が、ここでは社会調査が把握し(損ね)た暴動の歴史的意義と、仲村祥一における「転向」の意味を考えたい。大阪社会学研究会の当時をご存知の諸先生方の知見をうかがえたら望外である。
報告番号325
「JGSSデータダウンロードシステム(JGSSDDS)」と「JGSSオンライン分析アプリケーション」の開発
大阪商業大学JGSS研究センター 金 政芸
【1.目的】 本報告では、大阪商業大学JGSS研究センターが日本学術振興会の「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業」の一環として開発したデータアーカイブシステム「JGSSデータダウンロードシステム(JGSSDDS)」と、オンラインでデータ分析ができる「JGSSオンライン分析アプリケーション」について紹介する。 【2.JGSSDDS】JGSSDDSは、リポジトリサービスとして広く利用されているJAIRO Cloudの基盤ソフトウェアであるWEKO3の機能を拡張する形で、国立情報学研究所(NII)と共同で開発した。開発プロジェクトは、2019年6月に開始し、3年間の開発を経て2022年の5月末からデータの一般公開を始めた。JGSS(日本版総合的社会調査)データを始め、EASS(East Asian Social Survey)データ、外部研究者から寄託されたデータをダウンロードできる。また、都道府県情報など個人が特定される可能性があるデータも利用できる(保証人として所属機関長の承諾が必要)。ユーザは、アカウントを登録してJGSSDDSにログインし、氏名、所属などのプロフィール情報を記入して利用申請を行う。申請を本センターが承認すると、ユーザに利用申請承認のお知らせメールが届き、メール内のリンクをクリックするとデータをダウンロードできる。 【3.JGSSオンライン分析アプリケーション】 「JGSSオンライン分析アプリケーション」は、データをオンラインで分析できるGUIベースのプログラムである。開発プロジェクトは2021年の10月から始まり、2022年6月に試用版を公開した。アプリケーションは、NIIが開発した「JDCat分析ツール」上で実行して利用できる。ユーザは、「JDCat分析ツール」の利用に必要なOpenIdPのアカウントを作成した後、JGSSDDSにある「JGSSオンライン分析アプリケーション」の初回起動リンクをクリックしてアプリケーションを「JDCat分析ツール」に取り込む。取り込みが終わったら「JDCat分析ツール」のページでアプリケーションを実行できる。データを読み込み、画面のボタンをクリックしながら、度数分布表、ヒストグラム、平均、分散などを簡単に出力できる。 【4.開発の意義と今後の予定】 JGSSデータは、従来は外部のデータアーカイブに寄託して公開し、個人が特定される可能性がある都道府県データは保証人(所属機関長)の署名を求めて郵送でデータを送付していた。JGSSDDSの稼働により、本センターが保有するデータがすべて一つのシステム内で公開され、利用申請の手続きもオンライン上で行われることで、データの利用促進につながると期待できる。また、JGSSプロジェクトや他の科研プロジェクトのデータを、チームに限定して共有して利用することも可能である。JGSSDDSは現在も開発を続けており、今後、研究の成果物登録と年次の利用報告も行うことができる機能を追加する予定である。また、「JGSSオンライン分析アプリケーション」を通して、簡単な統計分析を手軽に試したい人や、大学の授業で統計分析を学ぶ学部生など、より多くの人がデータを利用できるようになる。現在は試用版として公開しており、今後、クロス表をはじめ、相関係数、重回帰分析などの多変量分析の機能も追加していく予定である。 【謝辞】 本報告はJSPS人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業JPJS00218077184の成果である。
報告番号326
米国におけるメンタルヘルス及び薬物乱用領域を専門とするソーシャルワーカーと薬物乱用、行動障がい及びメンタルヘルス領域を専門とするカウンセラーの実質賃金推移の比較分析
帝京大学 浦野 慶子
【1.目的】 医療・保健・福祉分野では多職種連携によるチームアプローチが実践されており、メンタルヘルス及び薬物乱用領域においても多職種連携が行われている。そこで本研究は、連携している職種間の実質賃金の推移の違いを分析することを目的として、米国のメンタルヘルス及び薬物乱用領域を専門とするソーシャルワーカー(Mental Health and Substance Abuse Social Workers)と薬物乱用、行動障がい及びメンタルヘルス領域を専門とするカウンセラー(Substance Abuse, Behavioral Disorder, and Mental Health Counselors)に焦点を当てて、2010年から2021年までの両職種の実質賃金の推移を分析する。 【2.方法】 米国労働省労働統計局(U.S. Bureau of Labor Statistics)が公表している職業別雇用・賃金統計(Occupational Employment and Wage Statistics)及び世界銀行(The World Bank)のウェブサイト世界銀行オープンデータで公表されている国際通貨基金(International Monetary Fund)の国際金融統計及びデータファイル(International Monetary Fund, International Financial Statistics and data files)の米国の消費者物価指数を用いて分析する。本研究では、職業別雇用・賃金統計のうち、メンタルヘルス及び薬物乱用領域を専門とするソーシャルワーカーと薬物乱用、行動障がい及びメンタルヘルス領域を専門とするカウンセラーの年間賃金に着目し、世界銀行オープンデータで公表されている国際通貨基金による米国の消費者物価指数のデータより、2010年平均を100とした指数を用いて実質賃金指数の推移を分析する。尚、職業別雇用・賃金統計では2016年まで、薬物乱用及び行動障がい領域を専門とするカウンセラーとメンタルヘルス領域を専門とするカウンセラーが統計上、分かれていたため、2010年から2016年まではそれぞれの賃金統計をソーシャルワーカーのそれと比較検討する。 【3.結果】 実質賃金の推移に関して、2010年の平均を100とした指数で分析した結果、メンタルヘルス及び薬物乱用領域を専門とするソーシャルワーカーの実質賃金は、2010年から2021年までの全体をみると上昇傾向が見られた。一方、薬物乱用、行動障がい及びメンタルヘルス領域を専門とするカウンセラーの実質賃金は、米国の職業別雇用・賃金統計において薬物乱用及び行動障がい領域とメンタルヘルス領域が統計上、統合された2017年以降に関して、上昇傾向が見られた。 【4.結論】 2010年から2021年までの実質賃金の推移について比較分析した結果、メンタルヘルス及び薬物乱用領域を専門とするソーシャルワーカーの実質賃金も薬物乱用、行動障がい及びメンタルヘルス領域を専門とするカウンセラーの実質賃金も全体をみると上昇傾向にあることが明らかとなった。 [文献]データ The World Bank, World Bank Open Data, 2022, “Consumer price index (2010 = 100) – United States,” International Monetary Fund, International Financial Statistics and data files, (Retrieved June 10, 2022, https://data.worldbank.org/indicator/FP.CPI.TOTL?locations=US) U.S. Bureau of Labor Statistics, 2022, “Occupational Employment and Wage Statistics,” (Retrieved May 27, 2022, https://www.bls.gov/oes/tables.htm)
報告番号327
スロヴァキア系とハンガリー系の民族間結婚がもたらすもの ――南部スロヴァキア地域調査からの示唆
徳島大学 山口 博史
【背景】研究対象としての民族間結婚については、それを被説明変数ととらえる研究とそれを説明変数ととらえる研究に大別できる(Gaines Jr., Clark & Afful, 2015: 651-653)。本研究は民族間結婚を説明変数ととらえ、そのアウトカムを検討するという意味で後者の文脈に属する。 【目的】民族間結婚には焦点となる地域や事例によりさまざまな類型が考えられている。この研究では特に20世紀から今日まで何度かの「境界変動」(山口 2022)を経験した地域に注目する。そのような地域における民族間結婚の状況、およびそれが何をもたらしているかに関して量的調査の結果をもとに検討する。 【方法と調査地概要】調査対象地域は、中欧・スロヴァキア南部に位置し、ハンガリー国境に隣接するコマールノ市である。同地にはスロヴァキア系とハンガリー系の住民(ハンガリー系が域内ではマジョリティ)が混住しており、両者の民族間結婚も別段珍しいことではない。民族間結婚の実情について、2021年8月に実施した量的調査の結果をもとに報告を行なう。 【結果】民族間結婚の割合は人口全体の25.3%である。男女別、大卒/非大卒の別、年齢、月収などの分析カテゴリー間では民族間結婚の割合に大きな差は見られないものの、民族別にみると、人口の上での地域内少数派層(本報告ではスロヴァキア系)に明らかに民族間結婚が多いことがわかる(人数が多いエスニック集団との結婚が生じるのは不可解とまでは言えないが)。職業別にみるとホワイトカラー層に民族間結婚が多く(37.0%)、ブルーカラー層には少ない(18.9%)。一方で、現在地居住年数には少なからず差がみられる(民族間結婚層18.36年、非民族間結婚層22.63年)。ここから、民族間結婚における住民のエスニシティ、および移住との関わりについて集計してみるとスロヴァキア系移住層で顕著に民族間結婚の割合が高いことが判明した(ハンガリー系の移住層における民族間結婚は17.8%であるのに対し、スロヴァキア系の移住層における民族間結婚は58.1%である)。 【結論】当日より詳らかに説明するが、スロヴァキア系移住層の移住理由としても家族との同居を挙げる例が90%を超えており、民族間結婚が移住を誘発していることがわかる。このことをてがかりに、境界変動地域における民族間結婚の含意について論じる。 【文献】 Gaines Jr., Stanley O., Eddie M. Clark & Stephanie E. Afful, 2015, “Interethnic Marriage in the United States: An Introduction”, Social Issues, 71(4): 647-658. (Retrieved 11/6/2022, https://doi.org/10.1111/josi.12141) 山口博史, 2022, 「境界変動地域の社会学に向けて」『地域社会学会年報』 34:135-149.
報告番号328
公園候補地を寄付するとはいかなる行為か――「大東京」発足時の事例に関する一考察
京都大学大学院 堂本 直貴
【1.目的と2.方法】 本報告の目的は、私有財産として認められた土地を、公的な空間として活用する条件で寄付された事例から、公、あるいは都市計画と、個人や団体の関係を描き出すことにある。 1932年の東京市の市域拡張時(「大東京」発生時)に、公園の建設を目的とした土地の寄付願が、「個人や地域社会」、あるいは「神社寺社」から出されている。そうした土地は、公園地として審査されたのち、整備され、現在も使用されているものがある。本報告の問いは、国や地方公共団体が策定する都市計画に、いかにして自発的な態度を引き出し、参加させていくのか。また寄付をおこなう市民においても、別の意図が存在するのではないか、ということである。これまでの都市計画史においては、権力側(国や地方公共団体)が設置・整備した公園において、公園利用者が、博覧会や各種国家儀礼を通じて、教化されていったとする視点がある(たとえば、小野 2003)。しかし、社会学の歴史研究においては、暴動の場としての公園(中筋 2005)や、ほんらい自由な利用が可能とされる公園が、利用者やその行動において制限をかけるという矛盾に着目する(前田 2019)といった、公園を設置する側と利用する側の緊張関係を描くことが前提にある。その視点に立つと、私有地を公園として寄付するという行為から、単純に都市計画に包摂されていったと判断することはできない。では、どのように描くことが可能なのか。 上記の問い・目的に接近するために、東京都公文書館収蔵の東京市公文書から、1932年の市域拡張時(「大東京」発生時)に、個人や地域社会や神社寺社の所有地寄付へ対応・処理する過程で作成された公文書などを分析の対象とし、とりわけ土地を寄付する主体を「地域社会における団体」と「神社寺社」に分けて考察することとした。 【3.結果と4.結論】 公文書の分析の結果、寄付地の帰属権利に関しては、「個人や地域社会」と「神社寺社」では大きく異なった。すなわち、「個人や地域社会」の寄付地は、その帰属が完全に東京市に移転し、永続的な公園使用が可能になったのにたいし、「神社寺社」では、公園予定地の帰属は「神社寺社」で維持されたまま、その地上権(土地そのものを利用する権利)を、東京市が得る仕組みにあった。発表者は、かつて奈良公園を構成する官有地が、東大寺や興福寺に返還された1939年から51年にかけての議論を検討した。それは、奈良県が土地の所有権を返還する条件として、地上権を奈県が保有し、公園としての使用が継続できるようにするというものであった(堂本 2018)。その前例として当時考えられたのが、現在の目黒区にある目黒不動公園の地上権設定である。しかし、目黒不動公園の成立には、寺院所有地を公園として寄付する以上に、寺院側から様々な要望が出されている。それはのちの奈良公園に見られたような、公(権力)が公園管理の主体となる状況とは異なり、都市計画に包摂される市民像とは別の存在として立ち現れていると考えられる。この事例は、公園史の先行研究で触れられてきた、国内における公園の発生原因となった1871年上知令以降の公(権力)と神社寺社の関係性についての考察を深めることにつながる。
報告番号329
大学生のサークル活動への意味づけ――首都圏のインカレ・サークルを事例に
明星大学 荒井 悠介
1.研究の目的 本研究の目的は,大学生がサークル活動に対してどのような意味づけをしているのかを考察することである.先行研究は,学生文化に関して,学問へのコミットメントが進むと「アルバイト型」「サークル型」から「学問型」「勉強型」にシフトすることを指摘し,現代の大学生文化が「勉強型」に特化していくのではないかとしている.また,1年次学生の「部・サークル活動」への加入が在籍大学への適応と関連していることを明らかにしている(浜島 2018).その一方,かつて大学生の「遊び文化」を代表するものとみなされてきた,インターカレッジ(以下,「インカレ」)のサークルに加入する大学生たちが存在する.そこで本研究では,若者のコミュニケーションの個人化や,恋愛における「草食化」が指摘される今日,彼ら彼女らが何を目的としてインカレ・サークルで活動しているのかを分析する. 2.調査方法 首都圏の大学に通い,スポーツや芸術・文化,社会貢献などに関わる活動をするインカレ・サークルに所属する大学生46名(18大学,男性23名,女性23名)への半構造化インタビューを実施した.インタビューは2020年6月~2021年6月に実施し,各1~2時間にわたった.活動の様子や目的,友人関係や恋愛などに関するインタビューガイドを作成してインタビューを実施し,その結果を書き起こしてMAXQDAを用いてコーディングを実施し,分析を行った. 3.結果 分析の結果,次の傾向が見出された.(1)活動の目的―調査協力者が所属する43サークルのうち,活動の主要な内容が,友人作りや交際,「遊び文化」というよりも,特定の活動種目のスキル向上を目的とするサークルが約半数の23を占めた.多くの調査協力者がその目的のためとサークル活動を意味づけていた.(2)サークル選択の基準―協力者の約8割がインカレと意識しない,もしくは知らずに入会していた.サークルの実力,雰囲気,活動内容が選択基準となるケースが多く,特定の大学の学生と交友関係を形成することが理由となるケースは少なかった.(3)大学間の繋がり―約8割のサークルは,入会可能な大学の範囲を限定せず,多様な大学の学生が所属していた.その一方,ごく一部の男子学生の比率が圧倒的に多い大学が中心となるサークルにおいて,入会者を特定の大学の女子学生に限定する傾向がみられた. 以上の結果より,インカレ・サークルでの活動を,今日の学生たちは,友人作りに加えて,学生時代に力を入れる活動として意味づけている可能性が示唆された.これには,大学生の「生徒化」,就職活動の早期化などが要因として考えられる.また,インカレ・サークルを恋愛の場とみなさないという話が繰り返し聞かれ,大学生の交際相手の減少との関連性に加え,女子の大学進学率が高まりなどの要因が影響している可能性が示唆された. 4.結論 本調査協力者たちはインカレ・サークルの活動を,就職活動での資源となるような活動として意味づけている傾向が示唆された.今日の学生文化が「サークル型」から「勉強型」に特化していくという指摘がなされているが,本研究から,学生文化が「勉強型」にシフトする中,サークル活動の意味が変容している可能性が示された. 文献 浜島幸司,2018,「『部・サークル活動』と大学生文化」『武蔵野大学教養教育リサーチセンター紀要』第8号,pp.27-42.
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