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第97回日本社会学会大会 ポスターセッション(11/10(日)9:30~12:30)報告要旨

報告番号422

災害時の避難行動・意思決定プロセスと社会的・情報的要因の影響
目白大学 内田 康人

本報告では、災害時の避難行動において、社会環境や社会関係、社会的な働きかけなどの社会的要因、メディアや社会情報という情報的要因がいかに影響を及ぼしているか、明らかにすることを目的とする。それに向けて、避難の意思決定と実際の避難行動にいたるプロセスについて、促進要因と阻害要因という観点から整理し、要因間の影響関係を探っていく。それにより、避難の意思決定と行動についてモデル化し、実証的な検討をめざす。なお、本研究では意思決定過程に注目するため、事前情報や社会との関わりのもとで避難を検討する心的プロセスがたどりやすい風水害と土砂災害に限定して取り扱う。 手法としては、先行研究における、避難行動の促進要因と抑制要因、避難の意思決定モデルの検討をふまえ、災害経験者を対象とする量的調査から検証を試みる。量的調査は、2023年6~8月にかけて、ウェブ調査として実施した。スクリーニング調査は12,000人を対象に2023年6月に行われ、被災経験や現住居・地域における災害リスク認知等を尋ねた。その結果をふまえ、土砂災害・風水害の被災経験者、他災害の被災経験者などを対象に本調査を実施し、1,653名から回答を得た。質問項目は、被災状況、避難の意図・行動、避難の促進要因と抑制要因、被災前の事前の備え・知識等、災害に対する意識・考え、必要とした情報、利用したメディアなどである。 災害時の避難行動や避難の意思決定については、国内外で多くの研究蓄積がみられる。宇田川・三船ら(2017, 2019)では、平常時の避難行動意図の規定要因として6つが挙げられ、「効果評価」と「津波への対応の必要性」が避難行動意図に有意な影響を及ぼしていた。田中・梅本・糸井川(2016, 2018)は、避難の阻害要因を「災害時の情報」「住民の素養」「生活・家庭環境」の3つにまとめている。さらに、「避難するか否かを検討する局面」と「避難実行の局面」に分け、住民が検討する「避難の必要性」の判断に影響を与える「一次的阻害要因」、避難実行時にかかる負担・不安に関する「二次的阻害要因」に整理した。そして、共分散構造分析により、住民の避難意思決定モデルを検討している。関谷・田中(2016)は、避難の意思決定要因に関わる33項目のうち、避難意図への寄与が確認された要因として、「リスク認知」「規範」「心理コスト」の3つを示した。また関谷(2019)は、「計画的行動理論」を避難行動に適用した避難に係る行動意図モデルを提案している。さらに、柿本ら(2014, 2016)は「防護動機理論」の枠組みを援用して、予防的避難の阻害要因と促進要因を探っており、因果構造モデルを用いて「脅威評価」「非防衛反応」「対処の負担感」「呼びかけへの態度」から避難意思を説明する。また、避難意図と避難行動が乖離する原因検討のために、二項選択型ロジットモデルから、避難意図モデルと避難行動モデルを推定している。 本研究では、これらをふまえ、避難の意思決定および避難行動の促進要因と抑制要因、それらの相互影響関係について整理し、避難の意思決定モデルを行動科学および意思決定理論をもとに検討する。そして、量的調査の分析から、社会的要因と情報的要因の影響を探っていく。 【付記】本報告は、公益財団法人放送文化基金2022年度助成を受けて行われた研究成果の一部である。

報告番号423

Breaking Barriers: Experiences of Disabled Queer Activists in Japan’s LGBTQ+ Movement
立命館大学大学院 欧陽 珊珊

【1. Aim】 This report documents how Disabled Queer activists, who feel marginalized by both the Disability and the LGBTQ+ communities, have individually engaged with and critiqued existing movements in Japan. Previous studies have revealed multiple discrimination against LGBTQ+ people with disabilities have mostly been studied in the West. However, their participation in social movements is still under-discussed, and almost no studies have been conducted. In fact, some disabled queer activists claim that “LGBTQ members with disabilities are often overlooked during Pride Month”, and they also have noted that “the disabled community is excluded from queer spaces in various ways.” This report describes the work of Disabled Queer activists in Japan. 【2. Data&Methods】 In addition to reviewing the literature, this paper draws on interview data from disabled queer activists and fieldwork observations from pride parades that took place in various locations across Japan from 2021 to 2023. (This study was conducted after review and approval by Ritsumeikan University’s Ethics Review Committee for Research involving human subjects: 衣笠-人-2021-64.) 【3. Results】 The results reveal that ① despite the ongoing marginalization of people with disabilities who identify as LGBTQ+ in Japanese society, where sexual diversity is often overlooked, they continue to amplify their voices through various mediums since the 1990s, including community magazines, theatrical productions, zines, nowadays they had been represented in more different media, such as manga, films, and social media platforms. ② LGBTQ+/Disability members have become more active in social movements, such as recent Pride Parades, but they face accessibility issues when participating. The findings suggest that accessibility can be improved if there are any disabled queer who participate in it. However, organizers cannot complete it due to the economy and lack of volunteers. ③ The research also shows that compared to large-scale commercialized pride events (such as the Tokyo Rainbow Parade), smaller local pride events in Japan have more inclusive mechanisms and unique features, creating environments conducive to participation. 【4. Conclusion】 The practices of LGBTQ+/Disability members encourage the mainstream movement to engage in introspection on inclusion. This report aims to highlight the intersection of disability and queerness and promote empowerment within these marginalized communities. By highlighting these intersections, we can cultivate a deeper comprehension of the unique challenges that LGBTQ+ people with disabilities face and advocate for more inclusive practices. Enhanced visibility and representation in diverse forms validate their experiences and inspire others to support and participate in the movement for equality and inclusion. Ultimately, this report aims to contribute to a more equitable society where all voices are heard and valued.

報告番号424

大規模集合住宅団地(公営/UR)への学生居住事業の実態と課題——事業への社会的期待と継続性に着目して
札幌学院大学 新田 雅子

1.目的  昭和40年代に造成された大規模集合住宅団地(公営/UR)への学生居住事業が、全国各地で取り組まれている。そこには大学、学生、団地(=行政/UR+住民自治会等)それぞれの動機や役割期待があり、背景には公営住宅政策に関わる要素もあって、今日的かつ社会学的な主題であるが、先行研究は都市計画等工学系がわずかにあるだけである。本報告は団地への学生居住事業の実態を、この種の事業への社会的期待とその成果および継続性に着目して検討し、課題の論点整理を行う。 2.方法  新聞報道、大学公式サイト、UR公式サイト等からの情報収集の結果、北は札幌から南は福岡までおよそ50事業が確認され、うち約半数がURで残り半数が都営・県営等の公営住宅となっていた。特に2014年以降の協定締結例が目立つ。なかでも東京都が2022年度から都営住宅への学生入居事業を開始したことは注目に値する。  次に、報告者が直接事業に関わっている札幌市営住宅もみじ台団地(5,530戸)のほか、関西地区の2事例と首都圏の1事例の計4事例について、大学関係者および事業を所管する行政窓口担当者へのヒアリング結果に基づき、事業概要と現状および課題を比較分析する。 3.結果  2006年教育基本法の改正により大学の役割として「社会貢献」が明示され、地域社会との連携が、教育の質向上という点からも、また補助金獲得のためにも大学の必須業務となってきた今日、団地に学生が住み暮らし、住民活動に参加して地域活性化に取り組むというこの事業のねらいは、極めて具体的で分かりやすい。また学生にとってみれば、仕送り額が減少する一方、物価や地価の上昇傾向が続くなか、安価で良質な住宅の選択肢を増やす事業として意味づけられるだけでなく、学生時代に自己を成長させるユニークな経験としての魅力もある。団地サイドからは、老朽化する団地の人口高齢化と世帯の縮小、場所によっては空き戸率の上昇が顕著であり、「若い人が住んでくれるだけでいい」という声も聞かれる。よって、学生居住事業はその着想という点ではwin-winのストーリーであるように見える。  しかしながら、公営住宅の入居者資格要件を満たさない「学生」の単身入居はいわゆる「行政財産の目的外使用」であり、地域活性化等を目的とする「地域対応活用例」として2009年以降拡がってきた動きだが、各地のURの先駆的な取り組みに対して、住宅としての位置付けの違いを踏まえた事業スキームが必ずしも精査されているとはいえない。  また、学生の住宅環境に対する一般的な(たとえば出来るだけ交通至便で設備の整った住居に暮らしたいという)希望を度外視できないことや、長くとも4年程度しか居住しない学生の住民アイデンティティと役割意識の醸成の難しさは、事業によっては定員を満たさない結果につながっており、継続性の困難を感じさせる。 4.結論  本要旨執筆時点で結論として仮説的に言えることは、大学-学生と団地(=行政/UR)-住民(自治会)が効果的な相互補完関係を形成するためには、それらをつなぐ外部の「第三者」の存在が鍵になるということである。

報告番号425

在日韓国系ニューカマー第二世代のエスニック境界——海外滞在での経験に着目して
京都大学大学院 韓 在賢

【1.目的】近年、移民(ニューカマー)第二世代の研究の増加が目立つが、本研究の対象となる韓国系は、日本最大のマイノリティであった「在日コリアン(オールドカマー)」というマジョリティの陰に隠れてしまい、十分に研究が蓄積されてこなかった。また、韓国籍の子どもたちの学業達成が日本人の子どもとほとんど同等であることから日本社会に適応しているとみなされてきた。しかし、ニューカマーであるが問題なく適応していると考えられてきた韓国系の第二世代にも「外国にルーツを持つ」がゆえに経験する困難、形成されたエスニックアイデンティティを議論する必要があるはずだ。そこで本報告では、海外(韓国、日本以外)への留学やワーキングホリデーを経験した者に限定し、日本と韓国という単一民族主義的な国家と見做される国をルーツにもつ第二世代が、日本人、韓国人、その他の外国人を含む他者からどのようにまなざされ、その眼差しに対してどのように対処するのか明らかにする。【2.方法】2023年6月〜2024年6月にかけて、計17名の若者(18~35)に行なった生活史調査を行なった。その中で海外(アメリカ、イギリス、カナダ、ニュージーランドなど英語圏)で6ヶ月以上の長期滞在をした対象者の語りを抽出し、どのように自分を説明するのか、そこで出会った人々に何人として扱われるのか、その状況でどのように振る舞うのか分析する。全員が韓国人の両親を持つ日本生まれの韓国人(2.0世)であった。【3.結果】移民国家と認識されているアメリカやカナダでは、Korean-AmericanやKorean-Canadianなどが広く知られており、親の国籍と生まれが違う生い立ちをスムーズに理解する人々が多く、多様な背景を持つ人々の1人として受け入れられることに居心地の良さを感じていた。一方、語学学校やワーキングホリデーなどに留学した場合、周りにいる人々が日本生まれの日本人、韓国生まれの韓国人、ブラジル生まれのブラジル人など、シンプルなルーツを持っていることが多く、調査対象者を韓国人として扱うべきか日本人として扱うべきか迷う場面がいくつか見られ、その中で対象者自身も自らの位置付けに悩み、日本や韓国を離れてもアイデンティティの葛藤は尽きないことに失望する様子が見られた。【4.結論】グローバル化、多様化が浸透いているにもかかわらず、東アジア諸国出身者には依然として単一民族主義的なイデオロギーに基づいたエスニック境界(Barth 1996)の線引きが行われていることが、調査対象者の経験の語りから見えてきた。そのような線引きに対して、韓国語も日本語もでき、両国に精通している場合には、両方の期待に応えられるが、そうでない(韓国語があまりできない)場合には「韓国人」としての条件を満たせず、しかし血統からもパスポートからも「日本人」としての条件を満たしていないために、曖昧な存在としてどこにも帰属させてもらえない、どこにも帰属できない状況が起きる。新自由主義の時代において、あるはずのない「真正性(Authenticity)」が過剰に求められているのではないか。この点を報告では議論していきたい。

報告番号426

協働的オートエスノグラフィーと倫理的課題の乗り越え(難さ)——子どもとの実践を通じて
大阪大学大学院 藤阪 希海

【目的】本報告では、協働的オートエスノグラフィーの意義と問題点を提示する。オートエスノグラフィー(AE)は、周縁化されてきた声に光を当てることで、社会や文化を批判的に描き出す手法として注目されてきた。様々な種類のAEの中でも協働的AEは、力関係の不均衡性に留意しながら、研究者と協力者がともに主観性を探求するものである(Chang et al. 2012)。ゆえに協働的AEは、これまでに公的な場で発言する機会を多く得られなかった立場の人々に、自らを再現してもらう可能性を有する。一方で、そのような人々と協働的なAEの創造がいかに実践されうるのか、またその際に考えるべき倫理について、検討する必要がある。 【方法】文献調査や事例検討を通じて、協働的AEをめぐる倫理的問題の所在を明確化し、その問題と向き合うことでひらける可能性を模索する。事例としては、発表者がボランティアとして足を運んでいる、フリースクールの生徒たちと行う協働的AEの試みを取り上げる。その試みは、フリースクールにおける実践を、スタッフと子ども両方の目線から振り返り記録しようとするものである。子どもは、社会化されていない未熟な存在としてその声が排されてきたという背景もあり(Boylan & Dalrymple 2009)、倫理的配慮を要する相手の一事例として、適切だと言える。 【結果】子どもとの協働的AEの実践は、研究協力者が声を発するひとりの人であることを肯定し、研究者自身を教育することで進むと言える。あらゆる場面において、研究者自身の姿勢やアカデミックな慣習を批判的に問い直す必要に迫られる。例えば子どもに研究協力を依頼する場合、様々な懸念に対応するため保護者の同意は必須である。しかしそれは、子どもが一人前のひとではないと暗に示すことに繋がり、研究を通じて力関係の不均衡性が維持・強化される。また倫理申請の際には、書面での研究依頼や同意が推奨されるが、子どもの文化には必ずしも馴染まない。研究成果を文字として残そうとする際にも、特に文章での表現が苦手な子どものことばを記録する場合、研究者が子どもの発言を書き表現することで、権力関係が生じる。記述された文字を中心に研究を行う態度が、権力関係を強化する仕組みとして認識される。これらの問題に対して発表者の実践においては、絵を描いて同意を取ったり、日常的な場面で口頭による研究の説明を積み重ねたりした。 【結論】協働的AEに期待される、より対等な関係性の構築や集団的な主観性の探求は、数々の倫理的問題に取り組むことで可能となるものだ。研究者自身を含むアカデミアの価値観を、批判的に論じることが求められる。 【文献】Boylan, J., & Dalrymple, J. 2009. Understanding Advocacy for Children and Young People, Open University Press. Chang, H., Ngunjiri, F. W., & Hernandez, K. A. C. 2012, Collaborative Autoethnography, Left Coast Press.

報告番号427

「公共圏の砂漠化」とデジタル・ネットワーキングの可能性——「レジリエント(復元力に富んだ)社会」構築に向けて
大妻女子大学 干川 剛史

「公共圏の砂漠化」とデジタル・ネットワーキングの可能性  ―「レジリエント社会」構築に向けて―  大妻女子大学 干川剛史  本報告では.「巨大IT企業」のIT市場経済の寡占的支配とこれらの企業の利潤追求のために作り出された生成AIが生み出す「人類を存亡の危機に直面させる問題」から人々の命を守り、安全・安心をもたらしうる「レジリエント(復元力に富んだ)社会」(resilient Society)構築の方策を模索することである.  そこで、  1.巨大IT企業によるIT市場の寡占的支配をめぐる問題  2.生成AIをめぐる問題 上記2つの問題に関する著書や論文及び新聞記事や調査報告書等の諸文献を分析・考察してこの2つの問題の実態を把握し、  3.報告者が独自に構築した「ネットワーク公共圏モデル」を用いて、巨大IT企業のIT市場経済の寡占的支配と生成AIの悪用が作り出す偽情報の蔓延による情報空間の情報汚染が、情報格差と経済格差を拡大しさらに「ポスト・トゥルース(Post-truth)」状況を作り出して社会を分断し「公共圏の砂漠化」を引き起こすことで「人類を存亡の危機に直面させる問題」が発生することを明らかにする。  そして、この状況を打ち破るために、  4.報告者が提唱する「デジタル・ネットワーキング」の概念を用いて、巨大IT企業の事業と生成AIの開発・普及を規制するために、NGOと国連を中心として官・政・学・民及びジャーナリズムそれぞれの良識と改革の志をもつ人びとの間のデジタル・メディアを活用した連携行動の実践が不可欠となること示し、  5.「人類を存亡の危機に直面させる問題」から人々の命を守り、安全・安心をもたらしうる「レジリエント(復元力に富んだ)社会」構築の方策を導き出し提案する.  上記の考察から導き出された具体的な方策として、巨大IT企業の事業に対する包括的な規制に関して国連で審議・議決・制定され各国議会が批准した条約に基づいて法を制定し、巨大IT企業の各種の事業を通信事業や放送事業と同様に、国家による許認可事業とすることが考えられる。  他方で、ソーシャル・メディアを巡る問題を解決するために、上記の国連と国家の条約・法制定過程を経て、個人間の連絡手段としての利用やWebの閲覧は規制せず、個人による不特定多数を対象にしたインターネットの利用のみについて無線通信と同様の免許制にすることによって、極端な発言や偽情報の拡散を防ぎ、また、興味関心がある情報や偽情報に取り囲まれることで生じる「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」による「社会の分断」を防ぐとともに、巨大IT企業の不透明で不公正な個人情報の収集手段としてのソーシャル・メディアの利用を防ぐということが考えられる。  そして、これらの方策を効果的に推し進め「人類を存亡の危機に直面させる問題」を解決するためには、NGOと国連を中心とした官・政・学・民及びジャーナリズムそれぞれの良識と改革の志をもつ人びとによる「デジタル・ネットワーキング」が粘り強く実践されることを通して「公共圏の砂漠化」を防ぎ「レジリエント(復元力に富んだ)社会」を構築していくことが不可欠となるであろう。 文献 干川剛史,2001,『公共圏の社会学』法律文化社 ——–,2014,『デジタル・ネットワーキングの展開』晃洋書房 ——–,2024,『デジタル・メディアとネットワーキング』晃洋書房

報告番号428

新卒一括採用で企業は大学生に何を尋ねてきたのか——就職情報誌の分析から
東京大学大学院 山口 ゆり乃

【1. 目的】本研究では、企業が大卒者を採用するにあたり、学生に何を尋ねることで評価してきたのかを明らかにすることを目的とする。【2. 研究背景】日本企業の事務系総合職の多くでは、大卒者の採用にあたって、特定のジョブに結びついたスキル・専門性や就労経験よりも、企業との相性や訓練可能性などが重視されてきた。とりわけ就職活動の自由化に伴い、1990年代以降にはエントリーシート(ES)が導入され、志望動機や自己PR、学生時代に力を入れたことなど、学歴にとどまらない個人の側面が盛んに尋ねられるようになった。学生は、こうした質問に対応するため、企業の公表する情報を参考にしていく。その中で先行研究では、望ましい人材像の分析(岩脇 2004; 麦山・西澤 2017など)も度々なされてきた。他方で、就職活動プロセスに着目した大卒就職研究では学生と企業の相互行為に関心が寄せられ、面接場面については採用基準に揺らぎがあることが指摘されてきた(小山 2010など)。そのため、新卒者の採用において、実際のところ企業がどのようなことを尋ね、学生から情報を得ることで評価してきたのかの実態は定かではない。そこで本研究では、その前のスクリーニング段階における書類選考の「書かれた情報」に着目することで、企業がいかなる情報から学生を評価しようとしているのか、してきたのかについて検討する。書類選考で用いられた情報は、その後の面接選考でも参考にされることが多い。また、企業が何を尋ねるのかという点は、それを察した学生の行動にも影響を与えうる点で重要である。さらに、2020年に始まる新型コロナウイルス感染症の拡大によって、教育、労働市場はともに大きな変化を強いられた。本研究は、このような状況下でESの項目がどのように変化し、何が維持されてきたのか10年間の変化を問うことで、大卒者の採用において企業に通底するものを捉えることを試みる。【3. 方法・結果】東洋経済新報社の『就職四季報 総合版』2016年版から記載されている「ES・GD・論作文の出題テーマ」に関して、2025年版までのデータベースを作成する。その上で、計量テキスト分析や数量的にテーマのコーディングを行い分析することで、出題テーマがこの10年間でどのように変わってきたのかを量的に明らかにする。出題テーマの中では特に、学生時代のエピソードの尋ねられ方に着目する。具体的には、学生時代について尋ねる企業は増えたのか、その一方で新型コロナウイルス感染症拡大期には学業のことを尋ねる割合が増加したのかを検討する。2つ目の問いは、コロナ禍でガクチカが減少したとする上野・趙(2022)らの知見を、企業・業界を広げ再検証することになる。また、産業の情報と結びつけることで、業界ごとの傾向や、どの業界で特に変化が生じてきたのかを明らかにする。分析の結果は当日に報告する。

報告番号429

子にカミングアウトされた中国人親が体験するジレンマ——経験者へのインタビュー調査を通じて
立命館大学大学院 劉 強

【1:目的】 セクシュアルマイノリティにとってカミングアウトは切っても切れない関係ではあるが、カミングアウトは多くの他者を巻き込み、本人以外にも影響を及ぼす。砂川(2018)は、カミングアウトすることはクローゼットに閉じこもっていた人が、そこから「外に出る」ということになり、新しい自分が誰かの前に立ち出会うということであると指摘し、そのカミングアウトがもたらす結果の一つとして、王(2014)は「子がクローゼットから外に出るにつれ、親たちがクローゼットに閉じ込められる」と、カミングアウトされる側の親の立場の推移を指摘している。つまり、元々子の性的指向で秘密を抱えていない親が、子にカミングアウトされることにより、秘密を抱える側となる。子からカミングアウトを受けた親は、どのような状況に置かれているのかを本研究で明らかにしていきたい。 【2:方法】 本研究は中国のカミングアウト支援を行う団体に所属するボランティアに半構造化インタビュー調査を行い、主に自分がカミングアウトした/された体験、また自分はどのように支援活動を展開したのかを語ってもらった。COVID-19の影響により、オンラインでのインタビュー調査となった。12名の協力者のうち、子にカミングアウトされた母親11名、父親1名である。個別のインタビューの時間は1~2時間程度、そのうち夫婦がいたため、2名は同時に調査を行った。調査は許可を得て録音し、匿名化した逐語録を分析材料とし、テーマティック・アナリシス法を参考に分析を行った。なお、本研究は立命館大学における人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得たものである。 【3:結果】 今回のポスター発表で掲示する内容が、上記の分析の一部である。その結果として、親たちが以下の3つの状況下に置かれていることが確認できた。 1:プレッシャー ①宗教、民族・地域文化などの社会的状況②家庭を築く、家系を伝承していくという伝統的な家族観③社会からの差別、これら3つが親たちにプレッシャーを与えている。 2:不安 ①自分の想像していた未来が変わってしまう②政策面や民間的の支持力の欠如③信頼できる情報源の欠如④暴露されることでメンツが潰される⑤子の将来への心配、これら5つが親に不安を与えている。 3:苦しみ 親が、①偏見や差別的な見方②家族関係の悪化③理解の難しさ④他人に言えないモヤモヤする気持ち、で苦しんでいる。 【4:結論】 前述したように、親がプレッシャーや不安を感じ、また苦しい気持ちも抱えている。親は子に理解を求められるが、セクシュアルマイノリティに対してネガティブなイメージを持つ親自身は、子の性的指向を理解することは容易ではない。しかし、我が子であるがゆえ、理解したいという思いもあり、葛藤を抱える。もちろん、セクシャルマイノリティへの理解につながるような機会やリソースは中国では乏しく、それらに出会うことも困難だ。さらに中国の社会的要因や文化的措置の影響で、秘密が明るみに出ると社会的孤立に陥るリスクもあるため、親は他者に子の性的指向を打ち明けることを躊躇する。結果、親は子の性的指向の秘密を抱えた状態で孤立し、ジレンマを味わう。 【5:文献】 砂川秀樹(2018)『カミングアウト』朝日新聞出版. 王晴锋(2014)「“家庭出柜”:影响因素及其文化阐释」『广东社会科学』2014年第3期,189-197.

報告番号430

農村高齢者の生活保障における農地の価値と機能の変容 ——中国広東省茂名市の事例研究
岩手県立大学 劉 文静

研究目的  農村資源の村集団経営による村の福祉力と高齢者の老後生活保障について、農地との歴史的関連性から中国農村の「養老」の経済的要因を見出すことを目指し、農地流動化および農地の生活保障的機能の変容について考察する。 研究方法  本研究では質的調査法(質問票による聞き取り調査)を用いる。経済開発段階の差異や地域的文化的特徴等の要因から、広東省内の5つの調査対象地を選定し調査を実施している。本報告は平均的な農業地帯である広東省西部の茂名市(J鎮M村)の事例を取り上げる。 考察  茂名市(M区J郷)M村は5つの自然村と13の生産小組より構成される。農地と林地共に村集団所有の資源だが、農家にほぼすべて配分されてきた。水稲栽培のコスト上昇により稲作農業経営は維持できず、野菜作りから所得を得ている農家が多い。しかしながら、工商業が未発達な地域であるため、大都会や周辺都市部への出稼ぎ者が村人口の半分を占め、青壮年層の在村が少ない。そのため、農業は主に女性や中高年層によって担われ、「誰種田」(誰が農業の担い手になるか)の課題が浮き彫りになっている。 こういった背景を受け、近年、配分された農地の3分の1強に相当する面積をまとめ、村集団の下、大型野菜加工企業(2軒)に一括して契約のもとで請け負わせ、流動化させる動きも見られる。現状では、社会福祉事業(村民に還元の形)の財源としては不十分であるものの、集積された個別農家は地代収入を得られており、耕作者不足と農地放棄地の問題を一部解消しているともいえる。 先行研究にある広東省の他の地域と比較すれば、M村は野菜作りから現金収入を得ているため、老後の生活保障における農地の価値と利活用の可能性を示している。一方、老後に働けなくなった場合は限定的な年金(「新農保」制度の整備に伴い、60歳以上でもらえる公的年金)以外は収入がなく、老後は「息子に頼る」意識が強い。若夫婦共に出稼ぎし、「留守児童」と呼ばれる孫の面倒を見ている親世帯も多い。その意味では、世代間の相互扶養が成立しているともいえる。 現状、直接的な土地の集団経営による福祉力は期待できず、村の社会福祉事業における「共助」の可能性は薄いと指摘できるが、農地の集積と流動化は村集団として(の斡旋と企画等)の組織力なしには実現しにくいため、間接的に集団経営の機能を発揮できている側面も見過ごせない。 結論 出稼ぎ者の村へのUターンが不確定とはいえ、村の集団所有制のもとで請負農地と宅地の保有の可能性が残されていること自体、老後生活の保障において、大きな社会学的意味を有している。これは、中国農村社会構造上大きな特徴でもある。しかし、都市農村部の社会福祉制度における二元的構造の解消と改善は、中国にとって依然として大きな課題である。むろん、農業生産者の公的年金保険制度のさらなる整備も今後も問わなければならない。 農村土地を切口に農家の生産と生活の変容、特に土地の持つ老後の生活保障的機能の変容は、地域社会の変動を考察する重要な手がかりになり、今後とも追究していくべきである。 ※本報告は科研費〈基盤研究(C)平成26~28年度〉〈課題番号:26380685〉〈代表者:報告者〉および科研費〈基盤研究(C)令和3~6年度〉〈課題番号:21K01903〉〈代表者:報告者〉の研究成果の一部である。

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