【1】 21世紀の保守とリベラル
①コーディネーター:池田光穂(大阪大学)
②趣旨:
21世紀に入って、社会の保守とリベラルへの分断が激しさを増している。米国トランプ政権、英国ブリクジットを初めとして、仏独の移民政策、日本の成長政策等、社会は深い亀裂を曝け出している。20世紀の冷戦終結後、フランシス・フクヤマをして「歴史の終り」とまで言わしめた自由民主主義と資本主義的経済成長の勝利は一体どこへ行ってしまったのか。
近代リベラリズムは、自由民主主義と資本主義的経済成長を2本の柱として、近代社会を牽引して来た。これに対して近代保守主義は、民主主義と自由の間には実は深い亀裂が存在することを剔抉し、経済成長の間断なき持続が人間の常態と遠く乖離する可能性を懐疑した。ここから近代保守主義の民主主義とは区別される自由の主張、経済成長とは一線を画す常態への回帰の主張が帰結する。
21世紀の現在、近代リベラリズムが追求して来た民主主義はポピュリズムに逢着し、経済成長の原動力たるイノベーションは企業のみならず、政府や大学等教育文化にまで強迫されている。これに対する近代保守主義の自由は、新自由主義として毀誉褒貶に曝され、常態への回帰は長期に渡る企業家精神の席巻の結果、何が人間の常態であったかでさえ忘却の彼方に消え去ろうとしている。
21世紀の分断は、このポピュリズムにまで至ったデモクラートと新自由主義にまで貶められたリベルタンとの分断であり、イノベーションの強迫にまで至ったテクノローグと回帰すべき常態を見失ったユマニストとの分断である。21世紀の分断とは何か、それはどのように捉えられ、何をもたらすのか。21世紀の保守とリベラルの分断を理論的、実証的、フィールド的、極私的に捉える意欲的な研究発表を期待したい。
③キーワード:ポピュリズム 新自由主義、イノベーション、常態への回帰
④使用言語:日本語
【2】 アクターネットワーク理論(ANT)の可能性とその応用
①コーディネーター:金光淳(京都産業大学)
②趣旨:
Latourの書として最も重要とも言えるANTの理論書が『社会的なものを組み直す』(法政大学出版)として翻訳され話題を呼んでいる。この本は個人主義的な社会学を含む「社会的なものの社会学」を「関係的ものの社会学」へと展開を図る関係主義社会学を提唱している。ANTはフランス現代思想特有の難解な概念に満ちているものの、開明的で斬新な理論的枠組みを提供しているかのような幻惑感でわれわれを誘惑し続け、人文・社会・自然科学の多領域でその勢力を増殖させつつある。ANTの最大の特徴は、社会学の狭い研究領域にとどまらない視野の広さと関係性概念のもつ理論的鋭意さによって、社会学領域には収まりきれない知的対象に迫り、人類学、科学技術論、経営学、地理学、情報論、哲学、アートといった広範な領域視野を易々と越境させてくれる点である。驚くべきことに欧州の経営学ではANTの受容がすでに進んでいる。組織論の伝統の弱い日本社会学においては、多領域的視界を持ったANTの社会学での受容の意義は大きいであろう。
方法論としてみると、ANTは文字通り「ネットワーク」に注目しているという点で、関係主義に依拠する社会ネットワーク分析SNAと軌を一にする点がある。しかし非人間エージェンシーと物質性を扱うという意味において、やや閉塞感のあるSNAを大幅に拡張する可能性をも有していると言える。しかしSNAとANTはいまだに相互浸透しているわけではない。今後は数理的な武装化も追求されるべきである。
このテーマセッションでは、ANT的な脱人間中心主義的アプローチに関わる報告を、社会ネットワーク分析との両立可能性をも検討しながら、方法論研究/理論研究/実証研究の別を問わず幅広く募集する。
③キーワード:アクターネットワーク理論 関係性の社会学 社会ネットワーク分析 脱人間中心主義 エージェンシー
④使用言語:日本語
【3】 Patients Public Involvement: Health Social Movements and Collective Impact
①コーディネーター:細田満和子(星槎大学)
②趣旨:
In modern times, the main disease structure has changed from infectious disease to chronic disease, and many people are now living with illness. Despite the patients’ current situation, society still expects people with disease to behave consistently with the sick role which Talcott Parson’s previously defined. Once people are diagnosed, for example, as a cancer patient, they may lose their job and social participation opportunities and their hope to live. To change this situation, people living with disease do a variety of things, for instance, changing their illness image and repelling social stigma which is related to diseases by collaborating with other stakeholders such as medical and health professionals, persons from the workplace, fellow patients, and their community. Although there are many challenges, we can see the collective impact as a result of this movement. By exchanging information among sociological scholars, this session aims to explore the challenge for stakeholders in society of theoretical and empirical research on the movement of patients and supporters who change this social norm to counter social barriers and stigma, and strengthen discussions on Health Social Movements. Studies conducted at local, national and international levels that contribute to conceptualization and/or methodological and empirical developments in this field are welcome.
③キーワード:Patient participation, Public Involvement, Health Social Movement, Collective Impact, Sick Role
④使用言語:英語
【4】 Toward the Realization of Social Equality
①コーディネーター:数土直紀(学習院大学・国際交流委員会)
②趣旨:
This session aims to explore the ways to realize social equality through the activities of sociological studies. As is well known, various social inequalities have been sharply widening across all regions worldwide since the 2000s. Though most sociological researchers have recognized such trends in social inequality, they cannot change them under the pressure of globalization and the neoliberal regimes that exist among advanced countries. This fact implies that sociological researchers do not contribute significantly to efforts to solve the problems related to social inequality and social justice.
Therefore, the presentations in this session will be expected to not only depict the reality of social inequalities in our world, but also to specify the mechanisms that generate these social inequalities. Moreover, the coordinator hopes to explore concrete remedies for these social inequalities, through discussion between the presenters and the audience. Thus, the coordinator aims that the exploration of this session not be restricted to specific social contexts (e.g., the context of Japan’s society), rather it should aim for a more global context.
To achieve this, the coordinator has linked this session with the travel grant program provided by the Japanese Sociological Society (JSS). Specifically, half of the presenters in this session will be applicants of the JSS travel grant program, who are mainly young and overseas researchers, and the other half will be applicants for this session itself. The coordinator believes that this policy will effectively broaden our vision and deepen discussion in this session.
All studies related to problems of social inequality (e.g., income inequality, occupational inequality, educational inequality, gender inequality, racial/ethnic inequality, or health inequality) are welcome to this session. Similarly, both theoretical studies and empirical studies (quantitative or qualitative) are welcome in this session. The coordinator hopes to encounter diversifying studies in the field of social inequality studies.
③キーワード:Social Inequality, Social Justice, Sociology, Globalization
④使用言語:英語
【5】 アートと社会学の相互浸透
①コーディネーター:岡原正幸(慶應義塾大学)
②趣旨:
アート実践と社会学実践は、もはや、コンヴェンショナルな境界線によって、わずかに隔てられているにすぎない、そのように言うべき事態が頻発しています。1970年〜1980年代において、社会学にとどまらず多くの研究分野で起きた認識論的な転換や科学・学問観の変容、自己批判は、社会学という営みにおける「研究」「調査」「教育」「公益性」「表現」を再考させることになりました。その流れの中で、アート実践と社会学的実践の関わりもようやく変化してきました。
アートや写真、演劇が、社会やコミュニティを主題にしてきただけでなく、そこに積極的に介入し、ある意味では社会学的な実践を継続的に行ってきた(コミュニティアート、アートプロジェクト、応用演劇、コミュニティ演劇など)という歴史や現実があります。他方、社会学的な実践において、写真、演劇、アート、サウンドなどが、その成果物として提出されることも少なくありません。いわゆるアートベース・リサーチという研究スタイルを採用する社会学です。過去の二度のテーマセッション(開催校 九州大学、東京大学)でも、アートを取り込み使う社会学をめぐり、議論がなされ、また同時に、セッションでは、映画上映、楽器演奏、さらに即興的にダンス公演もなされました。今回も、プレゼンテーションのスタイルは限定しません。ペーパー報告以外の「社会学的実践」を歓迎します。研究主題や背景、問題意識は問いません、アートを使う社会学によって、その社会学実践に関わる諸々の人々がエンパワーされれば喜ばしいと思います。
③キーワード:アートベース・リサーチ、ソーシャリーエンゲイジド・アート、応用演劇、調査表現、エンパワーメント
④使用言語:日本語(場合によっては、英語)
【6】 Recognition of diversity and integration of minorities
①コーディネーター:DEBNÁR Miloš (デブナール・ミロシュ)(龍谷大学・国際交流委員会)
②趣旨:
This panel aims to bring together papers focusing on how the diversity is being recognized and how different minorities, such as ethnic, sexual or religious, are being integrated amidst changing social and political attitudes in different national and regional contexts. The diversity in contemporary societies keeps increasing not only in quantitative terms, but in terms of its recognition and understanding as well. Such an increase often leads to a more complex views of diversity and minority groups not being defined by one dominant aspect (e.g., culture or religion).
On the other hand, we have been witnessing increasing support for highly conservative politicians and parties even in some of the most liberal democracies in recent years and a decade passed since the multiculturalism has been declared to ‘utterly fail’ in the countries that used to by its most prominent supporters.
This session thus aims to explore various ways in which diversity and minorities are being discussed and understood in recent years and how is this reflecting the abovementioned contradictory trends. We welcome contributions from different perspectives, addressing some of the following questions, as well as those raising their own agenda relevant to this panel.
・What are the meanings and connotations associated with diversity, minority or integration in different contexts?
・How is diversity being ‘managed’ and minorities being integrated in terms of policy, practice or political theories?
・How and to what degree is diversity being incorporated into national myths and discourses of (national) belonging?
This session is linked with the travel grant program provided by the Japanese Sociological Society (JSS). Specifically, half of the presenters in this session will be applicants of the JSS travel grant program, and the other half will be selected from the applicants for this session. The coordinator believes that this policy will effectively broaden our vision and deepen discussion in this session.
③キーワード:diversity, minority, integration, belonging
④使用言語:英語
【7】 「ペットフレンドリーなコミュニティ」の可能性――「ペット特区」構想を題材にして
①コーディネーター:大倉健宏(麻布大学)
②趣旨:
現代社会において,動物やペットをめぐる様々な話題が取りざたされている.一方では,ペットとの暮らしが飼い主のQOLを高めたり,ペットセラピーや動物介在療法のように心身の健康回復の手助けになったりするなどの,ヒトと動物の“良好な”関係への関心が高まっている.他方で,ペット飼育時のマナー違反やトラブル,ペットの遺棄や虐待,地域での野良猫問題,災害時の同行避難,希少な野生動物の保護,農漁業への鳥獣被害,飼い主のない動物の殺処分や実験動物の処遇などのように“社会問題”化している課題も多い.
ヒトとペットや動物との共生に向けた諸課題への対応や環境整備を進めていくにあたり,飼育者と非-飼育者,そして動物に対する多様な考え方を持つ人々による共生や合意形成の成否がポイントとなる.そのような人々の「集まり」を「ペットフレンドリーなコミュニティ」と仮称する.このような「コミュニティ」の可能性は,ペット飼育や動物との共生に係る課題解決や環境整備,相互扶助の仕組みなどを大胆に組み込んだ,「特区」制度を構想することによって具体性を帯びる.例えば,ペット共生住宅やドッグパークの整備・拡充,地域猫や野生動物との共生のためのルールづくり,高齢社会でも安心して飼育できるペット保険や緊急時の預かり・引き取り制度の確立などが取り組み例として挙げられる.
昨年度大会でのテーマセッションでは,ペット介護,災害時の避難,ペットカテゴリーの変遷,地域でのペットとの共生,ペットをめぐるアクター,ドッグパーク,野生動物の餌付けについて事例報告がされた.本セッションでは,これらの現状分析や問題提起を踏まえつつ「ペットフレンドリーなコミュニティ」への展開可能性について社会学の視点から検討する.「ペット特区」的な空間を構想するならば,どのような仕掛けや社会的過程が必要となるか,そのためにはどのような発想の転換が有効か等,具体的な提案を含む議論につなげたいと考えている.
③キーワード:ヒトと動物,ペット,共生,コミュニティ,社会問題
④使用言語:日本語
【8】 終末期の支援にかかわる行為者の諸相
①コーディネーター:竹中健(九州看護福祉大学)
②趣旨:
高度成長期以降、日本における医療と福祉は、施設内の経済行為として推進してきました。過剰な検査と投薬、寿命やQOLを低下させる手術、本人が希望しない延命処置、社会的入院という人権を顧みない施設収容は、そのどれもが経済的合理性のもとに、医薬業界と福祉業界の経営的利権を維持する形で推進していた経緯があります。
一方現在は、現在少子高齢化を背景に極端な形で医療福祉分野の財政が切り詰められ、後期高齢者が受けられる医療の水準は、明らかに低下しています。複雑に利権の絡んだ状態で肥大化した医療と福祉の社会構造は、「経済行為」からはもうすこし距離をおいたかたちで、いろいろな新たなアイディアが取り入れられながら再編されていく必要があります。
本セッションでは、とくに終末期の医療や福祉の現場において患者や利用者を支援する様ざまな職種やボランティアとして活動する行為者に焦点をあてて、議論をおこないます。人が終末期をどう迎えるかは、重要な問題です。手術や投薬による延命と同じくらい、心穏やかに、心が満たされながら、自宅または施設や病院で最期を迎えることのできる社会の仕組みを整備していく必要があります。海外のホスピスでは、各種セラピストなど医療分野を超えた様ざまな専門職種に携わる人たちや、現役時代に医療や福祉に関連する専門職に従事していた人たちが退職後にボランティアとしてその支援に携わっています。医師や看護師になることを目指してトレーニングを受けている大学生や高校生、地域の住民も病院や施設のなかで、とくに気負うことなく患者や利用者をいろいろな形で支援しています。このような取り組みが広がる可能性、それが展開しにくい様ざまな現実的な問題、たとえば財政上の寄付を集める仕組みの問題についてなども、幅広く議論のテーマを募集します。
上記のテーマは、議論する対象や方法論については、とくに限定しません。すこしでも興味をお持ちいただいた方には、気軽にご参加いただけたなら、と思います。一人でも多くの方からの応募をお待ちしています。
③キーワード:終末期・ボランティア・医療・福祉・介護
④使用言語:日本語
【9】 現代に生きるシカゴ社会学
①コーディネーター:高山龍太郎(富山大学)
②趣旨:
現代社会学の方法やスタイルそしてテーマ設定に対して、シカゴ学派の集合的学問営為は今なお大きなインパクトを与え続けている。量的であれ質的であれ20世紀の社会調査を既定する諸方針は、すべて初期シカゴ学派の社会学者たちの手で定められ、彼らの苦闘の跡が今日の社会学にも受けつがれている。またニューディール政策期の政策設定を通じて、ハルハウスやシカゴの福祉系の研究者の方針が、今日の日本の多様な福祉政策にも踏襲されている。したがって21世紀の社会学および社会政策の諸論点は、20世紀のシカゴに発する研究潮流の回顧により見なおすことができる。シカゴ社会学の思想的支柱の一人ジョージ・ミードが展開したsocial self論は、social welfare, social problemsなどと19世紀後半に多用され、新たな意味を付与されたsocialという言葉の多様な含意に浸されている。しかし動植物の生態学(ecology)という新しい概念が学問的に肉付けされ花開いたシカゴにおいて、人間生活は人間生態学(human ecology)を通じて眺められることになった。それはsocialという語感にまつわる連帯や相互扶助といった含意を慎重に避けて科学的な観察にもとづく社会学や社会調査を構成していこうとする意欲の現われだったかもしれない。シカゴ社会学についてはこれまで日本でも相当の研究蓄積があるが、近年の欧米ではプラグマティズム再評価の動きとも連動して、様々な視角からの再検討が活発化しており、参考にすべき議論も少なくない。ことにミードの生誕150年(2013年)から没後100年(2031年)に向かう過渡期の現在、にわかに哲学、社会思想方面で新たな資料(未公刊だった学生ノートの公刊)や再評価の機運も高まり、その知的貢献に新たな照明が与えられている。本テーマ・セッションでは、決して汲みつくされないシカゴ学派の多様な研究潮流を再検討し、そこから21世紀の社会学、社会理論、社会調査が学ぶべきものは何かという問いに最新の視点を提供したい。シカゴ学派に属する特定人物、学説、研究法、研究テーマなどいずれに焦点を合わせた報告をも歓迎するが、学派全体との関連性や学派の現代的意義について言及してほしい。
③キーワード:シカゴ・モノグラフ、エスノグラフィ、調査技法、統計調査、プラグマティズム
④使用言語:日本語
【10】 人工知能は、私たちの仕事にどのような影響を与えるのか??
①コーディネーター:乙部由子(金城学院大学)
②趣旨:
2013年にオックスフォード大学のオズボーンらが「雇用の未来」という論文のなかで、人工知能が人間の仕事を奪うということを発表し、世界中に衝撃が走った。特に、日本は49%(アメリカは47%、イギリスは35%)という半分の仕事がなくなると論じられており、本当にそうだとすれば、最重要課題である。
この論文における報告は、労働が社会学のなかの一テーマであるにもかかわらず、社会学の分野では、一大テーマとして取り上げられることは、多くなく、いまだにそういったことを知らない研究者がいるのも事実である。
また、産業界や経済・理工系の研究者の間では、この論文に対して、疑問を呈するものも少なくない。なぜなら、日本の雇用環境には、独自のシステムがあり、例えば、労働者が必要なくなった(クビ)としても、ただ、要らないというそれだけの理由で解雇できなかったり(解雇権濫用の法理)、日本の伝統的な雇用システムとして、正規雇用の新卒一括採用という人材育成システムが中心となって動いているため、諸外国とは仕事のなくなり方も異なるからである。そのため、オズボーンらが指摘したように、仕事がなくなるというよりも、データ化可能な特定の分野(例:事務職、製造ライン等)の仕事が少なくなるのであり、また、正規、非正規ともに仕事がなくなるのではなく、まずは、非正規の仕事が減らされ、正規の仕事は別の仕事に置き換わるという道筋だと考える。
社会学の分野では、これまで、労働に関する統計を用いた報告は多数あるが、それに人工知能を絡めた報告はあまりなく、現実問題として、日本社会の雇用の未来と人工知能の問題は不透明である。
そこで、このセッションでは、人工知能と私たちの労働という大風呂敷を広げ、各自が自由に報告し、最後に、今後の労働のあり方を考えてしめくくりとしたい。
③キーワード:人工知能、労働、仕事、ジェンダー
④使用言語:日本語
【11】 文化社会学の感性論的転回-社会美学(social aesthetics)の可能性と課題
①コーディネーター:宮原浩二郎(関西学院大学)
②趣旨:
現代社会学では多種多様な研究スタイルが可能だと言われる。しかし、学生の卒業論文指導で思い知らされるのは、社会学が今なお主客二元論の近代科学モデルに呪縛されていることである。たとえば、「仮説形成はまず先行研究レビューから」「「主観的意見」を書いてはいけない」「好きなことをテーマにすると学術論文になりにくい」「「社会問題」を扱えば論文にしやすい」など。しかし、学生たちが純粋な好奇心から身近な社会-文化現象に向き合うとき、こうした「学術的指導」がかえって抑圧となることがある。悩んでいる社会学者も少なくないはずだ。
近代科学の客観主義が魅力を失っているのに、明確なオルターナティブが不在なのである。かつて反実証主義を掲げた現象学的社会学は、言葉や事物の身体的・感性的次元を脱落させ、意味分析レベルの客観主義に落ち着いた(→会話分析、言説構築主義)。批判社会学(CSを含む)も研究対象の道徳的-政治的正当性(「社会問題」)に依拠した客観主義を手放さない。頼みの綱の「人間学」は「哲学」に引き籠っている。
こうした現状に対して、近年、文化社会学の感性論的転回(aesthetic turn)が広く議論されはじめた(BJS 66(4) 2015など)。その多くは新現象学が指摘する「雰囲気の準客観性」(G.ベーメ)に依拠し、主観的感情と客観的実在の間にある「準客観的な社会的事実」に注目する。この流動的で生々しい、偶発性に開かれた現実を適切に記述・考察するためには、主客二元論(→「科学」vs「文学」)をのりこえる新たな公共的学術が必要になる。宮原の『社会美学への招待』(ミネルヴァ書房2012)はその初期の試みである。
本セッションの報告者には、「文化社会学の感性論的転回」の可能性と課題をめぐって、以下のいずれかに重点をおいた報告をお願いしたい。
・理論的・学説史的研究(G.ジンメル、作田啓一、G.ベーメ、J.ランシエールなど)
・芸術・芸能、趣味・スポーツ、ストリート文化、日常的社交などの感性的質(aesthetic qualityに着目した経験的研究
③キーワード:文化社会学、雰囲気の準客観性、感性論的転回(aesthetic turn) 、社会美学(social aesthetics)
④使用言語:日本語
【12】 「時間の社会学」の現代的展開II
①コーディネーター:高橋顕也(立命館大学)
②趣旨:
時間は社会学において理論的にも経験的にも最重要の概念ないし変数の1つである。
社会的時間を理論的に扱った社会学的研究としては、 P. A. Sorokin & R. K. Merton(1937)“Social Time”といった古典に始まり、工業化社会の時間に焦点を当てたW. E. Moore(1963)Man, Time, and Society や非近代の時代・地域との比較を行った真木悠介(1981)『時間の比較社会学』などの名著がある。しかしその後、個別の理論研究が提示されていったにもかかわらず、B. Adam(1990)Time and Social Theory が述べているように、それらを総合する試みが欠けており、現代の「時間の社会学」の理論と呼べるものが生み出されてこなかった。そうした状況に対し、近年では総合を図る意欲的な理論・学説研究が国内外で提起されている。他方で、生活時間研究(time-budget studies)や余暇の研究を始めとする経験的な時間研究も蓄積され、また近年、社会的記憶や、戦争や災害などの危機的出来事の時間的体験、さらに時代診断や社会構想に含まれる時間的契機に注目が集まっている。以上から、「時間の社会学」には、社会的時間に関するこれまでのさまざまな理論研究と経験的研究を架橋し、経験的研究のインプリケーションを相互に参照させるような研究が改めて求められていると言えよう。
昨年度、同一テーマの下で催されたセッションでは、多様な理論的・学説史的研究(「時間の社会学」史、ルーマン、アルヴァックス、見田宗介、進歩の観念史)や経験的研究(元号、戦争の未来表象)の成果が取り上げられた。そこで今年度の本テーマセッションでも、昨年度を引き継ぎ、社会(学)的時間をめぐる理論的、学説史的、経験的な研究を共有することで、「時間の社会学」の現時点での到達点を確認するとともに、それらをどう総合し展開していくかを再び論じ合いたい。
③キーワード:時間の社会学、社会的時間、出来事、社会的記憶、未来構想
④使用言語:日本語
【13】 カラフル社会の言語・文化・経験
①コーディネーター:徳川直人(東北大学)
②趣旨:
私たちは極度に多色化した状況を生きている。公式・非公式の信号や案内、書類や電子デバイスにおける図像やアイコン、身近な道具や服装のデザイン等に、これほど色が溢れた社会はかつてなかった。私たちは色覚に対する強負荷のもと、色の意味やルールを読み解いて行動しなければならなくなっている。
本セッションの目的は、これに関して散在している研究を持ち寄り、多色化のもたらす政治的効果や論理的帰結の諸相を探ることである。色の使用と他の社会的実践の間にどんな交互作用があり、言語や思惟の体系にいかなる特殊歴史的な形式と内容を与えているか、それがいかなる色の実践に跳ね返るか、それで日常的な色覚経験がいかに枠づけられ、どんな成員カテゴリーが生み出されているか、等。
換言すれば、ここにいうカラフル社会とは物質文化における色の多用がかかる重要な社会的課題を生じさせるに至った社会である。その直の起源は 19 世紀に遡ることができる。 18 世紀末にジョン=ドルトンが自己を含む通常ならざる色覚特性について初めて観察と考察をおこなった時にはただ興味深い科学的探究だったが、19 世紀、技術が色に満ちたものになると、色覚研究に大きな力が与えられ、件の特性が「色盲」とカテゴライズされて、社会を危険から守るための政治、労働者の職業倫理、当事者の人格や適性などに関する議論に転化した。近代の視覚中心主義にも色を軸とした転換が生じて批評や思想の系譜となり、目の規律に色覚の管理が加わった。厳格な色覚検査と進路制限を展開させた日本はその典型である。
大きな課題であるのに従来これに関する社会学的な接近は殆どなされてこなかった。が、 2010 年代以降、散発的ながら資料発掘や研究が蓄積されてきている。それをふまえて、思想史的・系譜学的な研究、色覚の管理と経験の社会史や生活史、「障害」の社会的構成、差別や区別にかかわる今日の課題に関する研究などを募りたい。
③キーワード:物質文化、色、近代、規律、差別
④使用言語:日本語
【14】 クロス・マイノリティ・スタディーズ
①コーディネーター:二羽泰子(東京大学)
②趣旨:
マイノリティをめぐる研究は、性・ジェンダー、人種・民族、障害、経済的階層など、特定の対象について別々に論じられてきました。その結果、共通する課題に関する知見の蓄積が、領域を超えて共有されにくく、相乗的な発展の機会を逸してきました。各マイノリティグループ固有の問題についての研究は必要でありながら、そのような研究のみでは見落とされてしまう視点が多くあります。例えば、差異をめぐるジレンマ、アイデンティティ・ポリティクス、スティグマ、ラベリング、差異と平等、排除と包摂等に関わる課題は、どのマイノリティの領域でも論じられてきたものです。したがってマイノリティ間に共通する接点を見いだしたうえで差異を明らかにすることによって、異なる領域の研究が相乗的に発展する可能性が開かれると考えられます。
そこで本セッションでは、異なる領域に位置付けられてきたマイノリティグループの接点を見いだすことを目的に、領域横断的な研究発表を募集します。研究目的そのものに、インターセクショナリティの視点や、異なる領域で発展した理論の交差が踏まえられている研究はもちろん、分析の結果として、これまで分析対象としてきた領域以外の視点が析出されたもの、あるいは偶然に異なる領域と共通の課題が見いだされたような研究の発表も受け付けます。また、先行研究の蓄積の少ないマイノリティグループや新たなマイノリティなどとの接点を見いだす研究も歓迎します。マイノリティの社会学の研究の発展に関心のある皆さんの積極的なご応募をお待ちしています。
Presentations in English will be equally appreciated.
③キーワード:マイノリティ研究、交差する課題、インターセクショナリティ
④使用言語:日本語・英語
【15】 現代社会の労働における「生活」と「マネージメント」
①コーディネーター:永田大輔(明星大学)
②趣旨:
本テーマセッションでは、現代の労働者の生活とネージメントの関連を複層的に捉える研究を募集する。近年、日本的経営という慣行のゆらぎを前提として、制度的な労働社会学に限られない形での社会学的な研究が蓄積されつつある。例えば非正規雇用やフリーランス労働を対象に、不安定な状況の中で不利な条件に同意する人々を対象とした研究がある。この労働の不安定性は技術革新による能力観の変容や消費環境の変化と連動した産業の不安定性によって加速してきた。その際に経営側が、労働者のモチベーションや承認等を利用して労働者に不当な働き方を強いること(やりがい搾取等)が問題にされてきた。関連してフリーランスや非正規労働者が個人化しており、労働条件に関して集団的な交渉が困難となることも問題として挙げられてきた。これは正規雇用においても組合加入率の低下等で問題になっている事態である。
この労働の個人化や消費環境による不安定化は、労働者にとっての問題として議論され、労働者と経営管理は対立的なものと捉えられてきた。だが、これらはマネージメントをする側の問題でもある。一定の労働力が確保・再生産され続けることがなければ企業や産業そのものの維持が困難になるからである。個人化した労働者を管理することや、不安定な消費状況の中でやりくりをすること等マネージメントする側の仕事自体が複雑になることを意味する。個人化した労働者を管理する際には個人の生活の維持と労働の関係はより大きな問題となってくる。
労働者自身にとってもマネージメントの問題は重要である。個人化した労働環境の中ではマネージメントが過剰なことだけでなくマネージメントが不在であることも問題になる。個人化が顕著な産業ではしばしば賃上げの原資が乏しい中でどこまで交渉が可能になるかは労働者の側にとっても問題となる。またフリーランサーにとっては時に自分自身でマネージメントを行う必要も出てくる。
本テーマセッションでは経営者等の狭義の管理者に限られない多様なマネージメントと労働者の関係やマネージメントが不在であるがゆえに起こる産業・労働の諸問題など多様な視点から、現代社会における労働とマネージメントの関係を本セッションは考えていくこととしたい。
③キーワード:個人化・管理・マネージメント・生活・消費文化
④使用言語:日本語
【16】 新しい技術と社会学の概念形成——新奇な現象に社会学はどう挑むか
①コーディネーター:高艸賢(立命館アジア太平洋大学)
②趣旨:
情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、仮想現実・拡張現実(VR/AR)、生殖医療技術などの新しい技術が、それぞれ程度の差はあれ、現代の社会に浸透しつつある。そして新しい技術が社会に浸透する中で、新奇な現象の特徴を捉える言葉や概念が出現してきている。例えば、日常的な行為の中で人々が自分のありようを数値によって把握する現象を「数量化された自己(quantified self)」と呼んだり、AIによる信用格付けなどの点数化現象を指して「スコアリング社会(scored society)」と呼んだりする向きが出てきている。
こうした概念は、現在進行形の新奇な現象について全貌が見えない中で分析するための指針を与えてくれる。本テーマセッションの第1の目的は、新たな技術の浸透に対応して登場した(しつつある)諸概念を分析道具として整理し共有することにある。ただし、社会の変化に敏感に反応した言葉・概念は、既存の社会学理論研究の蓄積とは独立に登場することもある。研究者に求められるのは、既存の概念・理論を活用しつつ新奇な現象を分析する方法である。この点を考えることが、本テーマセッションの第2の目的である。さらに第1・第2の論点を通じて、イシュー別に組織される研究領域に対してディシプリンとしての社会学が貢献しうる可能性も検討したい。
報告内容は、例えば次のようなものが想定される。(1)新しい技術の浸透の中で社会(科)学で使われつつある概念について、その来歴や射程を明らかにするもの。(2)技術と人間の結びつきの中で生じている特定の現象を取り上げ、社会学の既存の概念・理論・方法論の利用可能性を検討するもの。(3)過去の社会学者が、当時の技術的革新と社会変容に直面してどのように概念形成を行ったかを明らかにするもの。あるいは、(4)新しい技術に関連させて未来の社会を語る諸言説への反省的・批判的検討も考えられる。
なお、本テーマセッションは、2019年度のテーマセッション「技術革新再考:社会学の理論的冒険」や2018年度のテーマセッション「新たなる経験の社会学に向けて」と内容的に連続性がある。これらのテーマセッションの報告内容・議論の内容を発展させた報告も期待したい。
③キーワード:社会学理論、社会学の概念形成、テクノロジー、反省性、知識社会学
④使用言語:日本語
【17】 持続可能な社会への「転換」(トランジション)を社会学から考える
①コーディネーター:谷口吉光(秋田県立大学)
②趣旨:
地球温暖化が原因と思われる異常気象が世界各地で頻発するようになって、大量生産大量消費社会から持続可能な社会への「転換」(トランジション)が急務であるという意識が多くのセクターで共有されつつある。しかし、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)など自由貿易推進の動きを見れば、経済成長を至上目的とするグローバル資本主義の膨張に歯止めをかけることができずにいる。多国間協調によって温室効果ガスの排出抑制が期待されたパリ協定は、2019年12月のCOP25の結果などを見ても有効な対策を打ち出せず、このままでは現代文明が崩壊する「破局」が現実味を帯びつつある。
本セッションでは、「破局を回避しながら持続可能な社会に『転換』するにはどうしたらよいか」、言い換えると「現在の生産と消費のあり方を持続可能な方向に変えるにはどうしたらよいか」という問いに関する社会学的な研究報告(理論研究や事例研究)、考察や提言などを募りたい。持続可能な社会への転換の方法と過程を研究するのがSustainability Transition(持続可能な社会への転換、以下ST)と呼ばれる研究分野である。提案者は「持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築」(代表 S.マックグリービー総合地球環境学研究所准教授)という共同研究に参加して、食と農の視点からSTについて研究してきた。
STという言葉はなじみがないかもしれないが、ローカリズム、分散型社会、脱成長、定常型社会、縮小社会、エコロジー、有機農業、エシカル消費などの概念と共通部分が大きい。具体的な研究対象としては、食と農のほかにエネルギー、交通、金融、消費生活、ライフスタイル、コミュニティ、社会運動、価値観、言説などが考えられる。日本の社会学ではSTに関するテーマを横断的に発表できる機会がほとんどなかったと考えて、本テーマセッションを企画した。危機意識を単なる悲観論や終末論で終わらせず、希望のある未来社会の構想に結びつけるように議論を深めたい。
③キーワード:サステナビリティ、トランジション、ローカリズム、脱成長、定常型社会
④使用言語:日本語、英語
【18】 ポスト伝統社会における宗教、若者、ユース・カルチャー
①コーディネーター:安達智史(近畿大学)
②趣旨:
「若者と宗教・信仰」は、社会学の分野において過去20年の間に急速に関心を集めたテーマである。それは、一方で、商業主義や物質主義の浸透にともなうコミュニティをベースとした伝統的な宗教的権威の弱体化を、そして他方で、情報化やグローバル化のなかで成立した「自由な宗教市場」を背景として現れている、脱組織化した多様な信仰パターンや宗教的アイデンティティに焦点を当てるものである。このような若者と宗教との新たな関係は、世俗化を建前とする西洋社会においてのみ見出される現象ではない。識字率の向上、(とくに女性の)進学率の高まり、新自由主義経済の浸透、情報通信機器の普及といった、東/西あるいは南/北といった地理的区分を超えて広がる世界的な社会構造の変化が、信仰を下支えしてきたコミュニティや家族関係の変容をもたらしているためである。そうしたポスト伝統社会のなかで若者は、後期近代の生活様式や価値に開かれた形で、自身の信仰と改めて向かい合うことが求められているのである。その一つの帰結が、宗教と結びついた新たなユース・カルチャーの発展である。現代の若者は、宗教組織や儀礼のなか(だけ)ではなく、音楽、スポーツ、ファッションといった多様な文化ツールを通じて、宗教的アイデンティティを表現するとともに、より広い社会への適応をおこなっている。
本セッションは、そうしたポスト伝統社会における信仰と若者の関係の変化や、その具体的な現れである新たなユース・カルチャーについて、理論や事例に基づき検討する報告を募集する。具体的には、以下のようなテーマや対象があげられる。デジタル・ネイティブの信仰実践、信仰媒体としてのポップ・ミュージック(ex. クリスチャン・ロック、イスラミック・ポップ)、ナルチズム文化とMTD(moralistic therapeutic deism)、女性の信仰と労働・家族役割の変容、スポーツと身体をめぐる宗教規範(ex. 福音派とXスポーツ、信仰をもつアスリート/格闘家の宗教意識)、宗教とファッション市場の発展、信仰学校における科学教育、宗教的世界観に基づく社会運動など。なお本テーマは、萌芽的な分野であるため、事例紹介や調査途中のものも広く歓迎する。
③キーワード:ポスト伝統社会、宗教、若者、情報化、ユース・カルチャー
④使用言語:日本語(英語での報告も可)
【19】 移民理論を考える
①コーディネーター:樋口直人(早稲田大学)
②趣旨:
日本の社会学的移民研究にみられる最大の特徴の1つは、記述的なアプローチが支配的なことにある。これは、よくいえば枠組みありきでない謙虚な研究姿勢の表れともいえるが、以下の理由で弊害の方が大きいと考える。(1)現象(被説明変数)の記述だけでは、その背景となる要因(説明変数)との関連を解明できず、個々の事例をつなぐような知見へと発展しない。あるいは、分析枠組みの説明力を競うことで通説を確定させていく過程が進まず、研究が横に広がるだけで縦に蓄積されない。さらには、移民現象を規定する外生変数を考慮しないがゆえに、社会学一般との接点を持ちにくくなる。(2)移民現象は、既存の社会科学の前提を問い直す性格を多分にもつだけに、分析的なアプローチを採用したとしても規範的な問題に行きあたる。しかし、記述的なアプローチを積み重ねたところで、そうした規範的な問いが深化するわけでもない。その結果、移民研究が誰にとっていかなる意味を持つのか無自覚な研究が繰り返される、あるいは素朴実感的な水準から抜け出せなくなる。
管見では、こうした問題の多くは移民理論の欠如に起因している。そこでこのテーマセッションでは、移民に関わる理論的アプローチを広く募り、移民研究が何をなすべきか、移民研究に何が可能か、移民研究は何をしてこなかったのかを考えたい。ここでいう理論とは広義のものを指しており、それゆえ〇〇論といった具体例をあえて提示しない。また、純粋理論である必要はまったくなく、実証研究の理論部分や先行研究レビューなどの報告も、想定している。さらに、直接実証研究に使えるような中範囲の理論、古典から読み解く移民現象、既成パラダイムの批判、社会的な望ましさをめぐる規範理論など、通常あまり接点がない理論が一堂に会し、良い意味で火花を散らす機会にしたい。
③キーワード:移民研究、理論枠組み、分析的アプローチ、規範的アプローチ
④使用言語:日本語、英語
【20】 嗜好と現代社会―文化・趣味・ライフスタイル
①コーディネーター:橋爪裕人(公益財団法人たばこ総合研究センター)
②趣旨:
本テーマセッションでは,ひとびとが何かを好み,別の何かを好まない様子,つまり「嗜好」に関する社会学研究について,分野や方法論の垣根を越えた議論を行うことを目的としている.
P.ブルデューが『ディスタンクシオン』(1979=1990)において「テイスト」に関する社会学的議論を行って以来,「テイスト」に関する研究は日本においても数多く行われてきた.しかもそれは,美術や音楽の実践といった伝統的なハイカルチャーだけでなく,今ではポピュラーカルチャーの実践や食生活など,非常に幅広い分野にわたっているのである.それにもかかわらず,研究領域や手法による断絶が見られるのも事実である.社会階層・階級や再生産に対する関心から,文化資本の偏在に着目した主に計量的な手法による研究と,種々の文化的な実践がなされる論理への関心から,それぞれの「界」における「テイスト」による差異化・卓越化がどのように生じ,それがどのような帰結を生むのかに着目した主に質的な方法による研究は互いにあまり交わることなく行われているのである.
しかし,これらはともに「テイスト」=ひとびとの嗜好という,一見きわめて個人的に見える行為が実はきわめて社会的であることに着目した研究という意味において,共通の関心を有している.現代社会というコンテクストにおいてはハイカルチャーの大衆化や趣味や消費の個人化が進み,ひとびとの嗜好の社会性は見えにくくなっているようにも思われる.だからこそ,これまであまり交わることのなかった分野や方法を横断したディスカッションによって,新たな視点を取り入れ,それぞれの知見を有機的に結合させることで互いの研究の発展につながることを期待したい.ひとびとの嗜好がいかに社会的たりえるのかという視点をベースに,様々な領域の報告者が集まることを期待している.
③キーワード:テイスト,嗜好,差異化,卓越化,文化
④使用言語:日本語、英語
【21】 移住家事労働者研究の現在と未来——『家事労働の国際社会学』を議論する
①コーディネーター:定松文(恵泉女学園大学)
②趣旨:
家事労働は長年、家庭というドメスティックな空間において、またその家庭のための「労働」として行われ、雇用関係はあっても労働関連法から除外されることが多かった。だがR・パレーニャスらが明らかにしてきたように、1980年代以降、先進資本主義経済における福祉国家の後退、女性の就労拡大、新自由主義的政策の台頭などを背景として、家事・育児・介護を含む再生産労働領域での移住労働が拡大し、「再生産労働の国際分業」とも呼ばれる現象をもたらした。かくして家事労働は、「ドメスティック・イシュー」から「グローバル・イシュー」へと転換した。
このような転換を象徴するのが、2011年のILO「家事労働者のためディーセント・ワークに関する条約」(189号条約)採択であり、その批准を梃子に進められた労働条件の改善に向けた世界的気運の高まりである。移住労働者を含む家事労働者の権利擁護運動は越境的にも進み、トランスナショナルな社会運動としても注目される。こうしたなか刊行された『家事労働の国際社会学』(伊藤るり編)は、家事労働者運動の歴史的展開を念頭に置きつつ、日本を含むアジア、ヨーロッパ、北米の3つの地域における家事労働者の就労、組織化、ディーセント・ワーク実現に向けた実践、家事労働のフォーマル化の促進、あるいは阻害する政策および制度の現状を、現地調査に基づいて明らかにした。
本セッションでは、同書がもたらした移住家事労働者研究の成果をふまえつつ、このテーマに関連する最新の調査分析や、アフリカやラテンアメリカなど同書では扱われていない地域における動向の紹介など、研究領域のさらなる発展を目指した討論を行う。また、研究の理論面の意義と同時に、社会的貢献の射程についても、多角的に議論したい。「家事労働」をめぐる歴史的研究、国内移動者を含む移住家事労働者の比較研究および歴史的研究、さらには『家事労働の国際社会学』(2020)の書評報告も歓迎する。
英語
Domestic work has long been performed in the domestic space of households and for the benefit of households. Also, even where the employment relationship has been established between a domestic worker and a household, it has often been excluded from labor-related laws. However, as R. Parreñas and others have identified, there has been an increase of migrant labor in the field of reproductive labor, including domestic, childcare and elder care since the 1980’s, under the backdrop of the decline of the welfare state in advanced capitalist economies, the expansion of women’s employment, and the rise of neoliberal policies. This has resulted in the emergence of “the International Division of Reproductive Labor,” thereby, shifting domestic work from a “domestic issue” to a “global issue”.
A symbol of this shift was the adoption of the ILO Convention on Decent Work for Domestic Workers (No. 189) in 2011 and the growing global momentum leveraging its ratification to improve working conditions. Advocacy movements for domestic workers, including migrant workers, have spread across national borders, and they have also attracted attention as transnational social movements. Transnational Sociology of Domestic Work (edited by Ruri Ito) based on the results of field surveys was published in this context, with the historical development of the domestic worker movements, and clarified the present state of policies and institutions to promote or hinder the employment, organization, decent work of domestic workers, promoting the formalization of domestic work in Asia, Europe and North America, including Japan.
In this session, the latest research and analysis related to this theme and introduction of trends in regions not covered by the book, such as Africa and Latin America, will be presented, based on the results of the book’s research on migrant domestic workers. In addition, we would like to discuss the significance of the sociological theory as well as the range of social contribution from various perspectives. We welcome the historical research on “”domestic work””, the comparative and historical study of migrant domestic workers, including internal migrants, and book reviews of Transnational Sociology of Domestic Work (2020).
③キーワード:家事労働、再生産労働、ディーセント・ワーク、移民、ジェンダー
Domestic work, Reproductive labor, Decent work, Migrants, Gender
④使用言語:日本語、英語