社会学関連の文献データベースが不備であることは、これまでたびたび指摘されてきたとおりである。たとえば、(1)あきらかに社会学関係と思われる雑誌が、たとえば、Sociological Abstractsという文献目録雑誌の収録対象となっていない。(2)収録対象になっている雑誌、たとえば『社会学評論』であっても、情報提供体制の不備のために、掲載漏れが生じている。(3)『社会学評論』の文献目録の補完作業は、国会図書館員沢西氏の個人的厚意と努力に頼っており、長期には組織的体制が完備していない、等々である。さらに、現在の日本社会学会理事会の体制のもとでは、こうした文献データベースのあり方や体制づくりについてどこの委員会が担当であるのか、その所管が明確でない。こうした現状に鑑み、改善の実質的提案を検討する場として、去る10月9日の理事会の席上、「データベース小委員会」を頭書の6名のメンバーでもって構成することが決定された。しかし予算その他の制約上、格別の予算出費を伴う活動や企画は不可能であるし、組織的にも大幅な改革まではのぞめない。当面は、1994年にビーレフェルトで開かれる予定の世界社会学会議に向けて発行する予定のBIBLIOGRAPHY OF JAPANESE SOCIOLOGICAL LITERATURE IN WESTERN LANGUAGES, 1994の作成のためのフォーマットづくり、『社会学評論』に毎年掲載している文献目録づくりにどのように取り組むべきかを答申することが、本小委員会に課せられた優先課題だと考える。
なお、「データベース」というとき、本来は、異なる2つのことを意味しうる。すなわち、文献データベースと社会調査データベースである。もとより、いずれも大切な問題ではあるが、当面私たちに課せられた課題は、文献データベースに限定されるものと解釈したい。
本小委員会は、去る11月13日に会合を開き、直井、矢澤、岩本、高坂の各委員、ならびに 新 委員の代理として海野道郎編集委員会委員が出席した。本答申は、当日の討議をふまえた答申(案)をさらに全員もちまわりで検討し、最終的にとりまとめたものである。
2ー0 問題の所在
学術研究の国際化と量的・制度的発展に伴い、学術情報の入手においてデータベースの役割は増大している。しかし日本の人文社会系、とくに社会学関係では組織的な取り組みがなされていないといっても過言ではない。その結果、たとい雑誌論文を執筆したとしても、有力な文献データベースの掲載から漏れてしまうということが日常的におきかねず、日本の社会学の成果が全国化、国際化しないという結果を招いている。研究の国際交流は、文献データベースの完備に尽きるわけではないけれども、重要な一要因であることはいうまでもないであろう。幸い、関係する海外のデータベースはいずれも普遍的な収録基準をもち、条件を満たしさえすれば受け入れられる。また、最近はコンピュータや電子メディアの発達により、文献データベースづくりにしても、活用形態においても技術革新が進んでいる。日本社会学会はそうした技術革新への取り組みも相当遅れている。学会としての時機を逸しない組織的対応が必要である。
2ー1 現状
2ー1ー1 社会学関係の文献データベース書誌と日本の社会学
SOCIOLOGICAL ABSTRACTS(冊子体、CD-ROM、オンライン)
言語を問わず、社会学を主題とする雑誌は網羅的に収録することになっているが、現段階で収録されている日本の学会誌となると、『教育社会学研究』、『ソシオロジ』、Behaviometrika、『行動計量学』、 Japanese Psychological Re-search、『心理学研究』の6誌に過ぎない。(数理社会学会機関誌『理論と方法』は創刊号(1986年)に遡り収録の予定。)とりわけ、『社会学評論』が1989年まで収録されておりながら、その後は収録されなかった時期があった(いずれ、カバーされる予定)。
Social Science Citation Index(年刊、CD-ROM、学情センターを通してオンライン利用可)
収録範囲は社会科学の主要な雑誌となっている。1992年版で、社会学を主題とする雑誌で収録されているのは75誌である。しかし、そこに収録されている日本の学会誌となると、Japanese Psychological Research、『心理学研究』、『人類学雑誌』など9誌に過ぎず、社会学関係は皆無である。
International Bibliography of the Social Sciences.
(年刊、CD-ROM、オンライン; Sociology, Anthropology, Economics, Politi-cal Scienceの4分冊になっている)世界規模の社会学文献データベースであるが、日本の社会学関係の雑誌論文の収録状況は、これまでの日本社会学会の情報提供に依拠しているにとどまっており、まだまだ部分的である。
International Current Awareness of Services: Sociology.
(月刊、冊子体のみ)こちらの方は、人類学関係のわずかの雑誌が収録されているに過ぎない。
『雑誌記事索引』(国会図書館)
ここには、IJJSをはじめ、多くの社会学関係の雑誌が未収録である。たとえば、『応用統計学』、『解放社会学』、『家族社会学研究』、『現代社会学研究』、『行動計量学』、『公共選択の研究』、『社会学史研究』、『社会学年報』、『女性学年報』、『村落社会学研究』、『理論と方法』、など(50音順)は未収録である。また、大学の紀要類についても、新設大学・新設学部の雑誌は収録されていないものが多い。(2-1-3参照。)
Current Contents of Academic Journals in Japan:The Humanities and SocialSciences.(学会誌刊行センター; 年刊、フロッピー)
対象分野は日本の人文・社会科学系の学術雑誌に掲載された原著論文の欧文題目と書誌情報(1992年版では紀要と学会誌合わせて291誌)。社会学関連では、『法社会学』、『季刊社会保障研究』、『教育社会学研究』、『社会学評論』、『ソシオロジ』、『都市問題』が収録されている(1992年版)。学会からの収録申し込み可。委員による審査の上で収録を決定。審査は学術誌として適切か否かがポイント。
以上のように、国内外の文献データベース書誌への日本の社会学雑誌論文の収録状況を眺めてみると、きわめて貧弱であることが窺える。論文を執筆しても、この種の書誌に掲載されなければ、論文の執筆者からいえば、引用、評価・批判を受ける機会が制約されることになるし、検索者側からいえば、必要な文献が捜しだせないことになる。こうした状況は、雑誌発行母体である学会や研究会の、ひいては日本の社会学そのものの国内外での認知や評価にとってマイナスに働くとみなさなければならない。
2ー1ー2 他領域の現状
たとえば、地理学の領域では、人文地理学会(会員1600人規模)が文献目録をつくっており、すでにフロッピー版の作成・販売もはかられている。第9集(1987ー1991年の分をカバー)の例で言えば、329頁の冊子体およびフロッピー版のいずれも定価14000円で売り出されている。人文地理学会は、文献データベースをつくるための編集委員会を設けており(50名)、そのなかの13人が文献目録準備委員会委員となっているようである。
2ー1ー4 国外の文献データベース書誌の対応の現状
海外の雑誌論文データベース・書誌には、すでに見たように、Sociological Abstracts (SA)、Social Science Citation Index (SSCI)、Social Science Index (SSI)、International Bibliography of the Social Sciences (IBSS)などがある。これらの書誌は、すべて外に対して開かれたものであり、決して排除的ではない。日本の社会学雑誌の収録に遺漏があるのは、したがって専ら日本の社会学雑誌の側の責任といってもいいだろう。各雑誌の編集者の側からの積極的な働きかけがあれば、そして収録の基準を満たしておれば、収録対象となるだろう。最近の成功例については、『理論と方法』(13、8(1): 89)所収の橋爪大三郎報告を参照されたい。
2ー2 日本社会学会(データベース小委員会)の課題
2ー2ー1 当面の(1994年7月までの)課題
一つは、1994年に刊行しようとしているBibliography of Japanese Sociological Literature in Western Languages(但し、タイトル改変の上。別紙参照。)を、少しでも良いものにしていくことである。
2ー2ー2 次回の社会学文献目録調査の時期までの課題
『社会学評論』掲載の「文献目録調査」の整備、具体的にはアンケート用紙のフォーマットの改善策を提言し、実行すること。たとえば、今後は、欧文要旨の有無の調査を追加したり、記載例を詳しくするなどの点に配慮する。
2-2-3 その他の課題
1)内外の文献データベースに収録されうる条件を調べて、それを明示し、関連の学会・研究会・編集責任者に対して情報を提供し、かつ、協力を仰ぐ。
2)文献データベース書誌事項について標準化したものを作成し、社会学関係の雑誌そのものが文献データベースづくりになじみやすいものにしてゆくように提言する。
3)『社会学評論』の「文献目録」の長期的見通しをたてる。
4)文部省の「科学研究費補助金」に関連して、成果公開促進費<データベース>に応募する道が学会組織に開かれている。学会が文献データベースの作成と整備に組織的に取り組み始めた段階では、これに日本社会学会として応募すべきである。(なお、岩本健良氏が研究代表者となって、平成6年度総合研究(B)の科学研究費申請が出されている。研究課題は「行動科学・社会学における文献データベースの構築と活用に関する研究」。)
5)急速に進んでいる文献データベースのコンピュータ化・電子化(CD-ROM, オンライン)への対応を考える。具体的には、フロッピーディスクや電子メールの活用など。個人からの学会事務局への情報提供手段としても、処理、活用法としても使えるはずである。
6)社会調査データベースについては、目下、札幌学院大学で作成中であるが、そのあり方について将来は学会としても一つの窓口を設けるべきである。
日本社会学会の現状では、『社会学評論』に掲載する「文献目録」およびそのためのアンケート調査は、編集委員会の仕事と見なされている。さらに、IBSSへの情報提供は、学会事務局の手で行っている。しかし、その他の国内外の文献データベース書誌との関連となると、窓口がはっきりしない。そこで、現理事会の任期の間は、データベース小委員会を継続させ、文献データベースに関わる問題を一括して扱うところの日本社会学会の統括窓口とすることを提案したい。むろん、これまでの所管をただちに変更したり、代替するのではなく、あくまで連絡をとりつつ、統括するのである。そして、次期理事会においては、より本格的に取り組める体制をつくるために、新たに「データベース委員会」を発足させることを提案する。
さらに、現在の学会事務局の体制で文献データベースに関わる諸問題をこなしてゆくに十分だとは思えない。将来は、抜本的に考え直されるべきであろう。
4 まとめ -いま、すぐには何をなすべきか-
以上述べてきたように、私たちのなすべき課題は際限なく多いように思われる。しかし、いますぐに何をなすべきかというと、とりあえずは次の2点にしぼられるであろう。
4ー1 BJSLWL関係: 12月19日理事会でBJSLWLのフォーマットとそのためのアンケート用紙のフォーマットを別紙のような形で提案し、承認をうる。(フォーマットについては、すでに10月10日渉外委員会でも検討され、あとは委員長が取りまとめの作業を一任されている。)
4ー2 他機関との連絡調整: 家族社会学会など、すでに文献データベースづくりに着手されている機関との連絡調整をデータベース小委員会が窓口となってはかる。
なお、本答申においては、『社会学評論』の「文献目録」関係について十分に議論を煮詰めるところまでは至らなかった。今後、速やかに本小委員会と編集委員会とが連絡をとりあって改善に取り組むべきだと考える。
別紙
BIBLIOGRAPHY OF JAPANESE SOCIOLOGICAL LITERATURE
IN FOREIGN LANGUAGES (BJSLFL) 1994年版の作成に向けて
0 本誌の名称の変更
本誌の名称を頭書のように変更する。日本社会学会会員が、たとえば中国語など、非西洋の言語で執筆した論文も当然収録の対象とすべきだと考えたためである。
1 作成のスケジュール
(略)
2 フォーマット/レイアウト
(略)
3 その他の提案
アンケートのフォーマット
外国語文献目録調査用紙(略)
日本社会学会 データベース小委員会
答申添付資料
1993年12月1日
本文5ページ 別紙4ページ 添 付 資 料
1993年12月1日
データベース小委員会
委員長 高坂 健次
委 員 新 睦人
〃 直井 優
〃 宮島 喬
〃 矢澤修次郎
専門委員 岩本 健良